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2022/10/12

総合 - ドイツ経済ニュース

ガス使用量が一定限度内であれば上限価格が適用、諮問委が提言

この記事の要約

天然ガス危機対策を検討する政府の諮問委員会は10日、中間答申を発表した。価格高騰に苦しむ世帯と企業の支援を狙ったもので、総額は960億ユーロ。需要家の負担軽減策がガス消費量の抑制目標と両立するよう配慮されている。オーラフ […]

天然ガス危機対策を検討する政府の諮問委員会は10日、中間答申を発表した。価格高騰に苦しむ世帯と企業の支援を狙ったもので、総額は960億ユーロ。需要家の負担軽減策がガス消費量の抑制目標と両立するよう配慮されている。オーラフ・ショルツ首相は政策決定の「とても良いベース」になると絶賛し、速やかに実施する意向を表明した。

需要が大幅に増える冬季にガス不足を発生させずに需要家の料金負担を軽減することを狙った今回の提言は、一般世帯・中小企業を対象とする政策と、エネルギー集約型企業など大口需要家を対象とする政策の2本立てで構成されている。

一般世帯・中小企業向けの政策は2段階に分けて実施される。まずは今年12月に支払う予定のガス料金を国が全額負担。2023年3月1日から24年4月末までは一定限度内のガス使用量に上限価格を設定し、これを超える費用部分については国が負担を引き受ける。国の負担は660億ユーロ。

来年3月から適用される上限価格は1キロワット時(kWh)当たり12セント。使用量が今年9月の実績の80%以内であれば12セントを超える料金部分を国が負担する。同80%を超えた分は国の支援対象とならないことから、高額な料金が課されることになる。使用量抑制のインセンティブが働く。

使用量の80%に上限価格を設定するルールの導入が来年3月になるのは、準備に時間がかかるためだ。諮問委は世帯・企業のガス代負担がすでに膨らんでいることを踏まえ、今年12月のガス料金を国が全額負担することを提言した。来年1月と2月は国の助成がないものの、需要家の痛みは12月の助成措置で緩和される。同委のヴェロニカ・グリム共同委員長(経済5賢人委員)はこれについて、「(国による)12月のコストの全額負担は実際的であり、冬季(12~2月)を通して(各月の)コストを部分負担するよりも行政手続きの上ではるかに簡単だ」と説明した。

助成対象となる使用量を特定の月(今年9月)の使用実績に基づいて決めるという諮問委の提言は、消費量の節約に努めてきた人に不利に働くという問題がある。このため助成対象となる使用量を需要家1人1人に均等に割り当てる方式を採用すべきだとの批判があるが、同委のミヒャエル・ヴァシリアディス共同委員長(化学労組IG BCE委員長)は、各世帯の構成人数をガス会社は把握しておらず、実行不可能だとして理解を求めた。

大口顧客の上限価格は1月から

ガス消費量が年1.5メガワット時(MWh)を超える大口需要家向けには、使用量が前年実績の70%以内であれば1kWh当たり7セント上限価格を適用する。7セントを超える料金部分を国が負担することになる。支援総額は250億ユーロで、約24万~25万社が対象となる見通し。開始時期は来年1月1日で、世帯・中小企業向けの上限価格措置よりも2カ月早い。大口需要家の使用データをガス会社は詳細に把握していることから、早期に実施できる。

上限価格が世帯・中小企業向けより5セント低いのは、税金と手数料が加味されていないため。ジークフリート・ルフヴルム共同委員長(独産業連盟=BDI会長)はこれについて、税金などを加味すれば大口需要家向けの上限価格も12セントになると説明した。

諮問委が今回打ち出した支援策は、エネルギー危機対策として政府が9月末に打ち出した総額2,000億ユーロの基金を財源とする予定。

財政力の高いドイツが巨額の支援策を打ち出したことに対しては、欧州連合(EU)の他の加盟国から批判が出ている。ガス価格などを引き下げるための巨額財政出動を行えない加盟国の企業が域内市場で不利になるというものだ。欧州委員会内にも同調の動きがあることから、欧州委が認可するかどうかが今後の焦点となる。

諮問委は9月末に設立された。世帯と企業の負担軽減が緊急の課題となっていることから、そこに照準を合わせた提言を今回、行った。今月末に提出する包括答申では、ガス価格の高騰を緩和するための政策を提言する。ガス火力発電を減らすことは重要な柱で、残存原発3基すべての稼働期間延長を促す方向だ。