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2022/10/19

総合 - ドイツ経済ニュース

残存3原発すべてを稼働延長へ、与党内の対立解決に向け首相が指令権発動

この記事の要約

ドイツのオーラフ・ショルツ首相(社会民主党=SPD)は17日、国内に残存している原子力発電所3カ所の稼働期間をすべて延長することを決めた。政権内では原発稼働延長をめぐり環境政党の緑の党と中道右派の自由民主党(FDP)が対 […]

ドイツのオーラフ・ショルツ首相(社会民主党=SPD)は17日、国内に残存している原子力発電所3カ所の稼働期間をすべて延長することを決めた。政権内では原発稼働延長をめぐり環境政党の緑の党と中道右派の自由民主党(FDP)が対立。深刻なエネルギー危機のただ中で妥協の兆しが見えないことから、内閣総理大臣の指令権を発動して決着を図った。毛色の異なる政党からなる政権で大きな齟齬が生じないよう、両党の主張をともに一定程度、取り入れた措置となっている。

ドイツは今年末までの原発全廃を法律で定めている。だが、ウクライナに侵攻し制裁を科されているロシアが報復として欧州向けの天然ガス供給を停止していることから、ロシア産ガスへの依存度が高いドイツでは冬季にエネルギーが不足する可能性がある。所轄大臣のロベルト・ハーベック経済・気候相(緑の党)はこれを踏まえ、現在稼働している3原発のうち同国南部のイザール2とネッカースヴェストハイムの2原発を来年1月1日から4月15日までの期間、予備電源に組み込む意向を表明。緑の党は14日の党大会でこれを承認する決議を行った。

残存原発の残り1基は北部のニーダーザクセン州エムスラントにある。ハーベック氏は同原発について、北部地域では電力供給不足が起こらないとして法律の規定通り今年末で廃止する考えを表明してきた。

しかし、欧州では現在、化石燃料価格が軒並み高騰し、天然ガスでは供給不足も懸念されていることから、エコノミストの大半は残存原発の稼働期間をすべて延長するよう求める声が強い。それにもかかわらずハーベック氏が延長可能な原発を2基に制限した背景には、ニーダーザクセン州で今月上旬まで州議会選挙戦が行われていたという事情がある。同州の緑の党はエムスラント原発の稼働延長反対を強く訴えていたことから、ハーベック氏は同原発の予備電源化方針を打ち出すわけにはいかなかったのだ。

FDPは3原発の稼働期間を少なくとも2024年まで延長することを強く求めていた。公共放送ZDF向けに世論調査機関ヴァーレンが実施した有権者アンケート調査によると、年明け以降の原発稼働延長を支持する人は54%と過半数に達し、「4月までの予備電源化」(支持32%)、「今年末での全廃」(12%)を大きく上回った。有権者の多くは稼働延長に伴うエネルギー供給の安定化、および電力価格の高騰緩和というメリットの方が、原発事故の発生リスクというデメリットよりも大きいと判断しているもようだ。

ただ、FDPの主張に従い稼働期間を24年まで延長すると原発に新たな燃料棒を投入しなければならなくなる見通しのため、緑の党は強く反発。妥協の糸口が見いだせない状態が続いていた。

緑の党内の反発が今後の焦点に

ショルツ首相はこれを受け両党の意見調整に乗り出した。16日にはハーベック氏とクリスティアン・リントナー財務相(FDP党首)を官邸に招いて協議。成果が出なかったことから指令権を発動した。

指令権は基本法(憲法)に基づいて制定された連邦政府規則(GOBReg)1条に定められた権限で、首相に内政・外交上の方針決定権を認めている。ショルツ首相は今回、ハーベック氏、リントナー氏およびシュテフィ・レムケ環境相(緑の党)に宛てた文書の冒頭で「私は連邦首相として、連邦政府規則1条に基づき以下の決定を下した」と明記。3原発の稼働を来年4月15日まで延長することが命令であることをはっきりと示した。これを仮に拒否すれば政権が瓦解する恐れもあり、受け入れ以外の選択肢はあり得ない。

リントナー氏はツイッターに「エムスラント原発のさらなる利用は送電網の安定、電力価格、気候保護への重要な貢献だ」と投稿。首相が示した妥協ラインに満足の意を示した。

一方、緑の党にとっては大きな痛手となる可能性がある。稼働延長は2原発しか認めないことをわずか3日前の党大会で決議したばかりだからだ。ハーベック氏は公共放送ARDの番組で、服従義務のあるショルツ氏の決定を「提案」と表現したうえで、「私はそれ(提案)でもって仕事をすることができ、それとともに生きることができる」と発言。苦しい立場をにじませた。党内の反発を抑えられるかどうかが今後の焦点となる。