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2023/1/25

総合 - ドイツ経済ニュース

ドイツの繁栄は限界に、労働力不足で20年代中にも停滞・縮小へ

この記事の要約

政策金融機関ドイツ復興金融公庫(KfW)は23日に発表したレポートで、短期の景気後退局面を除いて過去70年以上に渡って持続してきた経済成長は2020年代中にも停滞・縮小へと転じるとの見通しを明らかにした。労働力不足が深刻 […]

政策金融機関ドイツ復興金融公庫(KfW)は23日に発表したレポートで、短期の景気後退局面を除いて過去70年以上に渡って持続してきた経済成長は2020年代中にも停滞・縮小へと転じるとの見通しを明らかにした。労働力不足が深刻化しているうえ、労働生産性も低迷しているためだ。レポート作成者は、成長の基盤は崩落し、豊かさが発展する時代は終焉すると述べ、改善策を提言した。

ドイツでは少子高齢化が進み、出生数と死亡数の差である自然増減数は1972年から一貫して減少している。これに伴い労働力が不足する問題は以前から認識されており、政府はすでに様々な対策を行ってきた。構造改革「アゲンダ2010」では公的年金の支給開始年齢を引き上げる政策が実施。以前は65歳だった同年齢は12年以降、毎年1~2カ月ずつ延長されており、29年に67歳へと達することになっている。

経済のIoT化に向けた産学共同の「インダストリー4.0(I4.0)」戦略も労働力人口が減少するなかで同国の競争力を保つことが主な狙いだ。国外から優秀な人材を確保するための改革もすでに行われている。

これらの取り組みにも関わらず労働力不足は深刻化している。独商工会議所連合会(DIHK)によると、同国では空席となっているポストが長期間、埋まらない企業の割合が昨年53%に達し過去最高を更新した。全国の空きポスト数は推定200万件に達し、約1,000億ユーロもの巨額な価値創出の可能性が失われている。

労働生産性も低下しており、12年から21年の就労者1人当たりの生産性は上昇率が年率0.3%にとどまった。1970年代初頭(3%弱)から低下傾向が続いている。

KfWのチーフエコノミストであるフリッツィ・ケーラーガイプ氏は、「国内労働力供給の長期的な縮小と、生産性の弱含んだ展開との組み合わせは戦後のわが国が経験する初めての独特な問題だ」と明言した。

女性のフル活用を提言

KfWは解決策として、(1)国内在住者の就労を拡大する(2)移民を一段と増やす(3)労働生産性を引き上げる――の3つを提言した。これら3つの政策を組み合わせて実施しなければ成果は出ないとしている。

生産年齢人口(15~64歳)に占める就労者の割合は現在79%となっている。1990年代末から上昇傾向が続いているものの、レポートは35年までにこれを89%に引き上げる必要があると指摘した。女性と65歳以上の就労拡大、および職業資格を持たない人への研修・教育が重要だとしている。

高学歴や高度な資格を持つ女性の多くは現在、専門能力を生かせない単純な労働やパートタイムを行っている。子供の養育や親の介護、所得税制が足かせとなっているためで、専業主婦を選ぶ人も少なくない。こうした現状を改めるため、所得税制を改めるほか、無料ないし低料金の保育・介護サービスを提供するよう提言している。

資格や専門技能を持たない人は職業教育や研修を通して向上しようとする意欲が弱いため、就労のチャンスが小さい。KfWは、職業教育を受けようとする意欲を可能な限り早い時点で喚起することが重要だとしている。

65歳以上の高齢者の就労率は現在8%にとどまる。これを35年までに27%に引き上げるべきだとしている。

生産年齢人口に該当する移民の純流入は21年時点で33万人だった。20年代半ばまでにこれを180万人に引き上げる必要があるが、レポートは実現不可能と指摘。国内の潜在的な労働力を可能な限り活用するとともに、労働生産性を高めることの意義を強調した。

生産性の向上に向けては、企業の労力を削ぐ行政上の煩雑な事務手続きを簡素化することや、イノベーション促進策の強化を要請した。イノベーションの主な担い手となる「MINT」と呼ばれる数学、情報科学、自然科学、工学分野の学生・就労者を増やすことが極めて重要と指摘している。

MINT系職業従事者に占める55歳以上の割合は現在22%に上る。これら高齢就労者は今後12年で年金生活に入る。少子高齢化が進むなかでその穴を埋めるのは難しく、KfWはMINT系に進む女性の割合が低い現状を改める必要性を訴えた。