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2023/6/21

総合 - ドイツ経済ニュース

日本のデータ連携システムを警戒、独カテナXへの対抗モデルとの見方も

この記事の要約

企業や業界を横断してデータを連携・活用するために経済産業省などが先ごろ立ち上げたイニシアチブ「ウラノス・エコシステム」に、独自動車業界主導のデータ交換プラットホーム「カテナX(Catena-X)」の関係者が戸惑っているも […]

企業や業界を横断してデータを連携・活用するために経済産業省などが先ごろ立ち上げたイニシアチブ「ウラノス・エコシステム」に、独自動車業界主導のデータ交換プラットホーム「カテナX(Catena-X)」の関係者が戸惑っているもようだ。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が15日付で報じたもので、運営団体カテナX協会のオリファー・ガンザー会長は、データの連携には統一的な標準が必要だとしたうえで、「もし各国が現在、独自のデータ空間を創出するのであれば致命的だ」と明言。カテナXとウラノスのデータ連携が取れないような事態は回避されなければならないとして、「我々のアプローチが日本人にとっても魅力的であるためには、どこを修正しなければならないのかを考えなければならない」と述べた。

カテナXは匿名かつ安全にデータを交換するためにドイツの自動車業界が2021年に立ち上げたプラットホーム。独主導の欧州クラウド「ガイアX(Gaia-X)」をベースとしている。参加企業はコストや労力を削減できるだけでなく、部品不足の危機や二酸化炭素(CO2)排出削減などの課題に対応しやすくなり、国際競争で有利な立場を確保できるようになる。

例えば、参加する全サプライヤーが各部品の生産能力に関するデータ、自動車メーカーが必要とする部品の量に関するデータをそれぞれ入力すれば、部品の供給不足が発生するかどうか、あるいは発生するとすればいつ頃なのかを事前に予測できるようになるため、メーカーは早い時点で対策を取れる。

また、各部品の生産で発生するCO2の量をサプライヤーが入力すれば、完成車メーカーはライフサイクル全体で車両が排出するCO2の総量を計算することや、CO2排出量の少ない部品を手がけるメーカーを簡単に見つけることができるようになる。

カテナXを利用した取り組みはすでに具体化している。自動車大手BMWの主導で1月に設立された「フューチャー・サステナブル・カー・マテリアルズ(FSCM)」という名のコンソーシアムはその一例だ。金属とプラスチックのリサイクルを強化することや、再生材料の投入で起こる品質の不均一化を回避するための技術開発を目指している。メンバーにはエボニック(化学)、ティッセンクルップ(鉄鋼)などドイツ企業だけでなく、東レも名を連ねる。

JAMAと覚書を締結済み

ウラノスは日本独自のデータ連携構想で、経産省が4月下旬に発表した。カテナXと同様の機能を持つことから、ドイツ側にはカテナXへの対抗モデルとの見方もある。同省のプレスリリースには「社会課題の解決や産業構造の変革による経済成長を実現するには、企業や業界、国境を越えて、データを共有して活用できるようにする必要があります。諸外国に目を転じれば、欧州ではGaia-XやCatena-Xといったイニシアティブを通じて、データ主権やデジタルプラットフォーム間の相互運用性の確保、ソースコードのオープン化を実現しながら、連邦型の基盤を通じて安全にデータを連携する取組を進めております」と記されている。

カテナX協会は日本の自動車業界によるカテナXの使用を促進するため、これまで役員を日本に派遣し協議を行ってきた。日本自動車工業会(JAMA)とはすでに覚書を交わしたという。

トヨタ自動車の関係者は14日に開かれたJAMAのイベントで、日本の自動車業界はカテナXのようなネットワークを可及的速やかに実装したいとしたうえで、「われわれはカテナXと競合するのではなく協業する意向だ」と述べた。

経産省も「こうしたデータ連携に関する取組を実施するに当たっては、(中略)海外のデータ連携に関するイニシアティブとの相互運用の調整(ガラパゴス化の防止)を図ることが重要になります」と強調しており、ウラノスがカテナXと相互運用できないプラットホームになることはないとみられる。ただ、ドイツ側の戸惑いが不信感に発展しないよう、早期に意思疎通を図る必要はありそうだ。