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2018/6/27

総合 - ドイツ経済ニュース

VWの経営にスピード感、ディース体制下で長期戦略の取り組み加速

この記事の要約

自動車大手の独フォルクスワーゲン(VW)グループは19日から22日のわずか4日間に、長期経営戦略に関する4つの発表を行った。自動車業界を取り巻く環境が急速に変化するなかで、同社は勝ち組企業として生き残るために「スピード」 […]

自動車大手の独フォルクスワーゲン(VW)グループは19日から22日のわずか4日間に、長期経営戦略に関する4つの発表を行った。自動車業界を取り巻く環境が急速に変化するなかで、同社は勝ち組企業として生き残るために「スピード」と「実行力」を重視する姿勢を先ごろ、打ち出したばかり。ヘルベルト・ディース新社長の下でVWの事業展開は加速してきたもようだ。

同社は2016年6月、長期経営戦略「トゥゲザー‐シュトラテギー2025」を発表した。 モビリティのあり方が今後、大きく変わっていくことを踏まえた内容で、エンジン車から電動車への軸足の移動、電動車の中核部品である電池の内製化、車両のIoT化・自動運転化の推進に重点を置いている。

マティアス・ミュラー社長(当時)はこの戦略を着実に実行してきたものの、スピード感と徹底した実行力の面でディース氏の方が力量が高いなどの理由で今年4月に解任された。このため、ディース新社長が期待通りの力量を発揮できるかに注目が集まっており、経営戦略に直接関係する取り組みを今回、短期間のうちに相次いで発表したことはスピード感のアピールとなった。

25年までに全固体電池量産

VWは21日、米国のスタートアップ企業クアンタムスケープと共同で合弁会社を設立すると発表した。電動車用次世代電池の本命と目される全固体電池の実用化を加速することが狙いで、クアンタムスケープへの出資比率も引き上げる。VWは25年までに電気自動車(EV)を30モデル以上、市場投入する方針を打ち出していることから、現在主流のリチウムイオン電池に比べ航続距離などの性能が高い全固体電池を自社モデルに搭載し、電動車の販売を大幅に伸ばす考えだ。

クアンタムスケープはスタンフォード大学からのスピンオフとして10年に設立された企業で、カリフォルニア州サンノゼに事業拠点を置く。全固体電池分野の特許獲得・申請件数は200件を超える。

VWは研究開発で同社と12年から協力関係にあり、14年には資本参加に踏み切った。今回さらに1億ドルを追加出資。グループの研究開発を統括するアクセル・ハインリッヒ氏をクアンタムスケープの監査役会に送り込む。出資比率は明らかにしていないものの、同社に出資する自動車メーカーでは最大だとしている。

合弁会社は全固体電池の量産実現に向けて設立する。生産施設を25年までに開設する目標だ。合弁の出資比率は明らかにしていない。

全固体電池はリチウムイオン電池に比べ◇航続距離が長い◇充電時間が短い◇安全性が高い◇場所をとらない――というメリットがある。VW「ゴルフ」EVモデルの電池を現在のリチウムイオン電池から全固体電池に変更すると、航続距離は300キロから約750キロへと大幅に拡大するという。

フォードと戦略協業

19日には米競合フォードと戦略協業することで基本合意したことを明らかにした。顧客ニーズにきめ細かく対応するとともに競争力を強化することが狙い。株式持ち合いなどの資本提携には踏み込まない。

VWは共同プロジェクトを複数、検討することを明らかにしたうえで、具体例として商用車の共同開発を挙げた。運送会社など顧客のニーズが変化していることから、両社はこれに対応するためにそれぞれの強みを持ち寄って相乗効果を引き出す考えだ。VWのグループ戦略を統括するトーマス・セドラン氏は、提携を通して柔軟性を高めることは長期経営戦略の中核的な要素の1つだと述べた。車両の電動・IoT・自動運転化を本格実現するためには巨額の投資が必要となることから、メーカー各社は競合も含む他社との協業を通してコスト削減を図っている。共同開発には新技術の投入加速というメリットもある。

商用車部門の社名変更

VWは4月、計12あるグループブランドを大衆車、高級車、超高級車、商用車の4部門に再編したうえで、商用車部門フォルクスワーゲン・トラック・アンド・バス(VWTB)を有限会社から株式会社へと改める方針を打ち出した。商用車事業と乗用車事業は関連が薄いことから、相乗効果が小さいという事情が背景にある。主力の乗用車事業に開発資金などを重点配分すると商用車事業で必要な資金を確保しにくくなることから、そうした事態を避けるために株式会社化し、事業の拡大や強化に向けた資金を調達しやすくする狙いだ。

VWはその実現に向けて20日、VWTBの社名を第3四半期にトラトン・グループ(TRATON GROUP)へと改めると発表した。新規株式公開(IPO)に向けた取り組みの大きな一歩と位置づけている。VWという文字を用いない統括会社を創設することで、VWからの分離を明確化し、商用車部門独自のアイデンティティーを強化する考えだ。

TRATONは輸送エコシステムの「TRAnsformation(転換)」、同社と顧客が情熱を注ぐ「TRAnsport(輸送)」、全世界の顧客が輸送する荷物の「TONnage(トン数)」、傘下ブランドの「TRAdition(伝統)」、顧客の究極の目標であり同社の態度でもある「ON(動作中)」を組み合わせた造語。同社は輸送のあり方が大きく変わろうとしている新しい時代に設立される若い会社にふさわしい社名だとしている。

トラトンはMAN、スカニア、フォルクスワーゲン・カミーニョス・エ・オニブス(南米ブランド)、RIO(コネクテッドトラックシステム)の4ブランドで構成される。

傘下ブランドに担当地域割り振り

VWはさらに22日、主要傘下ブランドがそれぞれ担当地域を分担・統括する体制を導入すると発表した。各市場の実情に見合った決定を速やかに下せるようにすることが狙いで、VWグループの取締役会はグローバルな戦略課題に専念できるようになる。

各ブランドの担当地域はフォルクスワーゲンが北米、南米、サブサハラ、セアトが北アフリカ、アウディが中国を除くアジア太平洋と中東、シュコダがロシアとインド。最大市場の中国はVWグループの直轄化に置く。

各ブランドは統括する地域の事業を、VWグループの戦略を踏まえるとともに、当該地域で事業を展開する他のブランドとの調整も行いながら展開していく。これによりグループ戦略からの逸脱やブランド間の齟齬を回避する考えだ。

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