新車購入助成を政府が車業界と協議へ、新型コロナ危機からの脱却に向け

ドイツのアンゲラ・メルケル首相やオーラフ・ショルツ財務相は5日、自動車業界の代表と電話会議を行い、車両の技術革新に寄与する形で景気対策を検討することを取り決めた。新型コロナ危機で悪化した経済を速やかに立て直すことが狙い。政府と業界関係者からなる作業部会を設置して具体策を協議。6月初旬の次回会議で同部会の提案を話し合う。自動車産業が盛んな州は今回の会議に先立って新たな新車購入プログラムを要求しており、これが実現する可能性が出てきた。

州内に有力な自動車メーカーを抱えるバイエルン、バーデン・ヴュルテンベルク、ニーダーザクセンの3州は「イノベーション報奨金」という名の助成金を要求している。イノベーション報奨金は環境性能が高い新車の購入者に補助金を交付するというもので、助成額は電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)で1台4,000ユーロ、排ガス性能の高いガソリン/ディーゼル車で3,000ユーロ。電動車(EV、PHV、FCV)に対してはすでに最大6,000ユーロの補助金が交付されていることから、これらの車両では購入助成の総額が1万ユーロに拡大することになる。3州はこのほか、新車購入に際して下取りに出す車両にも「廃車報奨金」1,000ユーロを支給するよう求めている。

独自動車工業会(VDA)は自動車が国内最大の業界であることを踏まえ、新車購入を助成することでドイツは経済危機から速やかに脱却できると強調している。

これに対しては与党内や他の業界、エコノミストから批判が出ている。ドイツ機械工業連盟(VDMA)のカールマルティン・ヴェルカー会長は日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ』に、購入したい商品は消費者によって異なり、冷蔵庫や暖房など自動車以外の商品を必要する人も多いと指摘。自動車だけを優遇する措置は好ましくないとの見方を示した。

与党・社会民主党(SPD)のラース・クリングバイル幹事長は、操短や失業、失業懸念を背景に先行き不安が高まっているなかで高額商品の自動車を購入できる人は少ないとして、経済的な波及効果に疑問を投げかけた。キール世界経済研究所(IfW)のガブリエル・フェルベルマイル所長は新たな新車購入助成を「経済的に無意味だ」と断言。ガソリン・ディーゼル車を助成対象とすることについても地球温暖化防止に寄与しないと切り捨てた。

ドイツ政府はリーマンショックに端を発する2008~09年の金融・経済危機に際し、景気対策の一環として廃車報奨金を時限導入した。これは車齢9年以上の車を廃車処分したうえで、欧州排ガス基準「ユーロ4」以上に対応した新車を購入した個人に対し2,500ユーロを支給するというもの。当時は消費者の購買力と心理に大きな問題がなかったことから、景気底上げの効果があった。今回のコロナ危機では多くの消費者の収入が減少しているうえ、先行き懸念も強いことから新車購入助成の効果は小さい可能性がある。

ショルツ財務相は今回の会議に先立って、「我々が必要とするのは包括的なプログラムだ」と述べており、政府は自動車業界の支援にとどまらない総合的な景気対策を策定するもようだ。

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