1月末にEUを離脱した英国とEUの自由貿易協定(FTA)など将来の関係の構築に向けた交渉が依然として難航しているものの、主要対立点となっている公平な競争環境の確保、漁業権をめぐる問題で歩み寄りの動きが出てきた。英国側が交渉期限とする10月15日までに妥結できない場合も、その後の調整によって合意が可能な状況に持ち込まれれば、月末まで交渉を続けるとの見方も出ている。
英国はEUを離脱したが、双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため、20年12月末までは「移行期間」となっている。同期間が終了するまでにFTA交渉を締結し、批准作業を完了しなければ、EUと英国の貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿ったものとなり、関税が復活する。新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けている双方の経済に追い打ちをかけることになる。
FTA交渉では、双方とも移行期間終了後も関税ゼロでの貿易の継続を目指すことで一致している。しかし、EU側が関税ゼロには公平な競争環境の確保が不可欠として、英国が今後もEUの競争法などに従うことを要求しているのに対して、英国は国家の主権が侵害されるとして反発。一方、英国はEUの共通漁業政策から離脱するため、自国水域でのEU漁船の漁業権を制限しようとしており、EUの反発を招いている。この2つの問題が最大の障害となり、交渉が進展しない状況が続いてきた。
ここにきて風向きが変わったのは、英国が交渉期限とする15日が近づき、双方が合意に向けて現実的な対応を模索し始めていることが背景にある。EUのバルニエ首席交渉官は7日、EU加盟国の代表に交渉の状況を説明した際、漁業権について現状維持を断念し、毎年の交渉によって英国の排他的経済水域(EEZ)内でのEU漁船の操業権について取り決めるという英国側の主張への歩み寄りを求めた。これによってEUの漁船の漁獲量は減るが、英国がEUのEEZで失う操業権をフランス、ベルギーなど漁業を重視する加盟国に割り振ることで影響を緩和するという案で、EU内の反発を抑えて合意に持ち込もうとしているもようだ。
一方、英国側は見返りとして、公平な競争環境で譲歩する方向に傾いている。これまではEUが他の国と締結したFTAでこのような要求をしていないとして反発していたが、フロスト首席交渉官は7日に英上院で、「通常のFTAではあり得ない程度まで踏み込んで」EU競争法に組み込まれることを受け入れる用意があると述べた。
こうした動きを受けて、双方では合意に向けた機運が高まってきた。ただ、互いに両問題でどの程度まで譲歩するかは固まっておらず、なお溝が埋まっていない。EUの消息筋はロイター通信に対して、15日までの合意は難しいとした上で、交渉期限を延長して月末まで協議を続けるとの見方を示した。