2020/10/19

EU情報

EUと英のFTA交渉、今後も継続

この記事の要約

1月末にEUを離脱した英国とEUの自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が、英国側が期限としていた15日までにまとまらなかった。EU加盟国は同日に開いた首脳会議で、今後も交渉を継続する方針を確認したが、英政府はEUが同国 […]

1月末にEUを離脱した英国とEUの自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉が、英国側が期限としていた15日までにまとまらなかった。EU加盟国は同日に開いた首脳会議で、今後も交渉を継続する方針を確認したが、英政府はEUが同国に譲歩を求めたことに反発。交渉打ち切りは宣言しなかったものの、EU側が歩み寄らない限り交渉に応じない意向を16日に表明した。時間切れ寸前まで粘って強硬姿勢を堅持する瀬戸際戦術で、EUから譲歩を引き出す狙いがあるが、これをEU側は見透かしており、協定がないまま「移行期間」が終了し、来年1月に関税が復活する事態が現実味を帯びてきた。

英国は1月31日にEUを離脱したが、20年12月末までは移行期間となるため、貿易など双方の関係は基本的に変わらない。同期間中にFTAや安全保障、外交、司法での協力など幅広い分野にまたがる将来の関係をめぐる交渉をまとめることになっている。

FTAに関しては、双方とも関税ゼロでの貿易の継続を目指すことで一致している。しかし、3月に開始されたFTA交渉は、EUのルールに縛られないでも、ほとんどの関税が撤廃される「カナダ方式」のFTAを目指す英国と、これを「いいとこ取り」として認めず、公平な競争環境を確保するため英国が今後もEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求するEUの主張が真っ向から対立する構図が。英国が排他的経済水域(EEZ)内でのEU漁船の漁業権を管理しようとしていることも大きな問題点となり、協議が難航している。

主要な争点となっている公平な競争、漁業権と紛争解決の仕組みをめぐっては、英国側が交渉期限とする15日を前に、双方に歩み寄りの機運が出ていた。このため、EUは15日の首脳会議で、最終合意を目指して15日以降も数週間にわたって協議を続ける方針を打ち出した。ただ、英国側がさらに譲歩する必要があると指摘。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「いかなる代償を払っても合意したいわけではない」と英国側をけん制した。首脳会議後の共同声明には、加盟国やEU企業などに「合意なし」を想定した準備を強化するよう働きかける文言も盛り込まれた。

これに対して英国のジョンソン首相は16日、EUが依然として他の国とのFTAでは要求していないことを英国に押し付けようとしているとして反発。英首相府のスラック報道官は「貿易交渉は終わった」と述べた。さらにジョンソン首相は、EUとFTAを結ばずに貿易しているオーストラリアを例に挙げ、FTAがないまま1月1日を迎え、オーストラリア方式でのEUとの貿易に移行する準備を進めなければならないと述べた。

一方、ジョンソン首相は「EUが交渉の姿勢を根本的に変えれば耳を傾ける」と述べ、EU側が譲歩すれば交渉継続には応じる方針を示した。

ジョンソン首相はEU離脱問題をめぐり、これまでも瀬戸際戦術でEUに揺さぶりをかけ、譲歩を引き出すことに成功してきた。FTA交渉が決裂し、英経済の混乱を招くかどうかが決まる正念場で、再び同戦略に打って出た格好だ。EUのバルニエ首席交渉官と英国のフロスト首席交渉官は19日の週にロンドンで協議することで合意したが、スラック報道官はEUが英国を独立国として尊重し、新たな提案を行う気がないなら「来る必要はない」と述べ、EUに譲歩を迫るなど、さらに露骨さが増している。

EUでは議長国ドイツのメルケル首相が双方のさらなる歩み寄りによる合意を目指す方針を示しているが、漁業権の問題で大きな影響を受けるフランスのマクロン大統領は、とりわけ譲歩するべきは英国という姿勢を示しており、一枚岩ではない。譲歩の余地は少ない。

FTAの締結期限は移行期間が終了する12月末だが、批准作業に時間がかかるため、交渉に残された時間は少ない。数週間以内に合意できなければ、EUと英国の貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿ったものとなり、関税が復活する。特に英国にとってはEUに輸出する農産品、自動車などに高い関税が課され、業界が大きな打撃を受ける。ジョンソン首相は「オーストラリア方式の貿易でも英国は反映できる」としているが、経済界では「協定なし」への懸念が強まっている。