欧州連合(EU)の欧州委員会は11月25日、域内の企業や研究機関などが産業データや公共部門が保有する情報にアクセスしやすくするための「データガバナンスに関する規則案」を発表した。「GAFA」と呼ばれる米IT大手や国家の支援を受ける中国企業などに対抗するため、膨大なデータを安全に共有できる仕組みを構築し、域内の企業がデータを有効活用して革新的な製品やサービスを開発しやすい環境を整える。
欧州委は今年2月、産業データの利活用や人工知能(AI)の開発促進などを柱とする新たなデジタル戦略を発表した。そのなかで域内の企業や研究機関、公的機関が持つデータを「製造業」「グリーンディール」「ヘルスケア」といった分野ごとに集積した「欧州データ圏」を構築する構想を打ち出し、個人情報の扱いなどとともにデータ共有に関するルールを年内にまとめる方針を示していた。
規則案はデータの生成・蓄積・公開・利用に係る管理のあり方を規定するもので、欧州委は規制当局が監督する機関や企業が中立的な立場でデータ共有を仲介する仕組みの導入を提案している。EUの一般データ保護規則(GDPR)に沿ってデータ主体の権利を尊重しながらデータ共有を可能にすることで、データ利用の信頼性と透明性を確保し、通常はプライバシーや知的財産権、情報の機密性などの縛りでアクセスできない情報を企業や研究機関で共有できるようにして、データ資源を活用しやすい環境を整備する。例えば公共部門が保有する情報の再利用を促すことで、医療データを活用して希少・難治性疾患の研究を推進することなどが可能になる。
欧州委は新ルールの導入により、公共部門が保有する情報や産業データの共有がもたらす経済効果は現在の年間70億ユーロから、2028年までに110億ユーロに拡大すると試算している。ブルトン委員(域内市場担当)は「経済における産業データの役割がこれまで以上に拡大しており、欧州はデータが市民や企業にもたらす恩恵を最大化するため、オープンかつ独立したデータの単一市場を必要としている。適切な投資と重要なインフラに支えられたEUの新規則は、データの利活用で欧州が世界で最も進んだ大陸になるのを後押しするだろう」と強調した。