ECBが「気候変動ストレステスト」の結果公表、「計画的移行」でリスク軽減を

欧州中央銀行(ECB)は22日、気候変動が欧州経済にもたらす影響を分析した「気候変動ストレステスト」の結果を公表した。気候変動が域内の企業や銀行にもたらす悪影響は、低炭素経済への移行にかかるコストを大幅に上回ると指摘。早期に温暖化対策を取り入れ、計画的に温室効果ガス排出ゼロに向けた取り組みを進めることで、移行コストや自然災害による損害を軽減できると結論づけた。

ECBは世界の企業400万社以上とユーロ圏の銀行1,600行を対象に、3つの異なる政策シナリオ――早期に効果的な対策が講じられる「秩序ある移行シナリオ」◇気候変動を抑制するための規制や政策が導入されず、気候変動が全く緩和されない「温室シナリオ」◇必要な対策の実施が遅れることを想定した「無秩序な移行シナリオ」――に沿って気候変動の影響を分析した。

気候変動のリスクには、自然災害の頻度や規模の増大による「物理的リスク」と、温暖化対策を導入することで新たなコストが生じる「移行リスク」がある。例えば欧州北部では洪水が多く、南部では山火事が多いといった物理的リスクが偏在する。一方、鉄鋼、セメント、化学産業の一部、発電などのエネルギー集約型産業では温室効果ガス排出量を削減するために多額の費用がかかるため、短・中期的には債務不履行となる確率が高まると考えられる。しかし、早い段階で対策を講じればエネルギー効率が向上し、中・長期的には初期費用を上回るメリットが得られると分析している。

また、気候変動への対応がなされない場合、自然災害の増加によってユーロ圏の銀行は深刻な影響を受ける可能性がある。ECBによると、温室シナリオでは計画的に移行を進めた場合と比べ、2050年に債務不履行の確率が8%高くなるという。気候変動による物理的リスクにさらされている企業が多い南欧の銀行は、より深刻な打撃を受ける可能性があると警告している。

ECBは今回の分析結果を踏まえ、22年にECBが直接監督するユーロ圏の大手銀行を対象に気候変動ストレステストを実施する計画。自然災害の発生や、温室効果ガス排出削減策などに伴う事業環境の変化が貸付や運用資産にどのような影響を及ぼすかを分析し、新たな規制を検討する際の参考にする。

上部へスクロール