2011/9/19

総合 –EUウオッチャー

シェンゲン協定見直し案が発表、出入国審査復活の判断はEUレベルで

この記事の要約

欧州委員会は16日、EU加盟国などが国境審査を廃止し、域内をパスポートなしで移動できるようにする「シェンゲン協定」の見直し案を発表した。不法移民の大量流入など不測の事態が生じた場合、加盟国が5日以上にわたって出入国審査を […]

欧州委員会は16日、EU加盟国などが国境審査を廃止し、域内をパスポートなしで移動できるようにする「シェンゲン協定」の見直し案を発表した。不法移民の大量流入など不測の事態が生じた場合、加盟国が5日以上にわたって出入国審査を復活させる条件として、事前に欧州委と他の加盟国の承認を得ることを義務づける。新ルールの導入には欧州議会と加盟国の承認が必要だが、フランス、ドイツ、スペインは加盟国の権限が縮小されることに強く反発しており、調整は難航が予想される。

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人の自由な移動を認めるシェンゲン協定は欧州統合の象徴となっているが、今年1月にチュニジアで起きた政変をきっかけに、北アフリカ諸国からイタリアやフランスに大量の移民や難民が流入している。対応に苦慮した両国政府が協定の見直しを提唱し、EU加盟国は6月の首脳会議で「例外的な状況」に限り、各国が国境審査を復活できるようにすることで合意。欧州委が「セーフガード」発動の条件などについて検討を進めていた。

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見直し案によると、大規模な国際会議やスポーツイベントの開催などに伴い、欧州内で大量の人の移動が見込まれるケースでは、当該国ではなく、欧州委が出入国審査の必要性を判断し、EU加盟国の過半数が支持した場合に同措置が実行される。一方、不法移民の大量流入など、緊急対応が必要な不測の事態が生じた場合、当該国は5日以内であれば独自の判断で出入国審査を復活することができるが、5日を超える場合は他の加盟国の承認を得なければならない。さらに、不法移民の流入などに適切に対処できない国に対しては、EUレベルで技術面や資金面の支援を行い、それでも統制できない場合は「最終手段」として、欧州委が主導する形で一時的に国境審査を復活させる。これはトルコからギリシャ経由で欧州各国に移動する不法移民が後を絶えず、域内でギリシャ政府の対応を批判する声が高まっていることを受けた措置とみられる。

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シェンゲン協定には現在、英国、アイルランド、ルーマニア、ブルガリア、キプロスを除くEU諸国とノルウェー、アイスランド、スイスの計25カ国が参加している。ルーマニアとブルガリアは遅くとも今年前半の協定参加を求めていたが、一部の加盟国から汚染や組織犯罪などへの対策が不十分との意見が出たため、6月に参加の先送りを決定。今月開く司法・内相理事会で改めて協議することになっているが、オランダが両国の協定参加を阻止する考えを表明しているほか、フランスやドイツなども難色を示しているもよう。規制強化の動きと共に、EU統合理念の柱の1つであるシェンゲン協定は後退を余儀なくされそうだ。

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