排出量取引制度改革案と炭素国境調整メカニズム設置規則案、欧州議会が修正案可決

欧州議会は22日の本会議で、EU排出量取引制度の改革案と炭素国境調整メカニズム(CBAM)の設置規則案をそれぞれ賛成多数で可決した。法案成立に向けて加盟国で構成する閣僚理事会との交渉に入るが、実質的な協議は秋以降になる見通しだ。

2つの法案は、2030年までにEU域内の温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減する目標を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の柱で、欧州委員会が2021年7月に提案していた。Fit for 55に盛り込まれた他の法案のうち、乗用車と小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準を厳格化して、35年以降はガソリン車など内燃機関車の新車販売を事実上禁止する規則案や、大気中のCO2吸収量(カーボンシンク)の目標値を引き上げるための、土地利用・土地利用変化および林業(LULUCF)に関する規制の改正案などは、すでに6月8日の欧州議会本会議で可決されている。

EU-ETS改革案は、域内全体の排出上限の削減ペースの引き上げや、対象セクターの拡大、無償排出枠の段階的削減を柱とする内容。具体的には現行ルールで適用対象となっているセクター(火力発電、鉄鋼、セメント、石油精製などのエネルギー集約型産業やEEA内の航空便など)について、毎年の排出上限の削減率を現行の2.2%から25年までは年4.4%、26年~28年は4.5%、29年以降は4.5%に引き上げる。欧州委は年4.2%の削減を提案していた。

対象セクターに関しては、新たに海運、道路輸送、建物に適用を拡大する。海運については船籍にかかわらず、総トン数5,000トンを超える大型船舶を対象に24年から適用を開始。EU域内の運航と域内の港湾停泊時はそれぞれ排出量の100%、域内と域外の港湾間を運航する場合は26年まで排出量の50%、27年以降は100%が適用の対象となる。

一方、道路輸送と建物については既存のETSとは別に、24年1月1日付で新たな排出量取引制度(ETS-2)を立ち上げる。欧州委は25年1月の創設を提案していた。EU市民に過度の負担がかからないよう、私的な輸送や移動と居住建物は28年末まで適用対象から除外する。

無償排出枠に関しては、EEA内の航空便への無償割当を26年までに廃止し、27年以降はオークション方式による有償割当とする。また、CBAM導入後は対象セクターへの無償割当を27年から段階的に削減し、32年までに廃止する。欧州委案では35年までの廃止となっていたが、これを3年前倒しする。

一方、CBAMは排出規制が緩やかな域外国に製造拠点などが移転するカーボンリーケージを防止するため、排出量の多い特定の輸入品に課税する仕組み。CBAMの対象となる製品をEUと同等の規制が実施されていない国・地域から輸入する域内の事業者に対し、域内で製造した場合のEU-ETSに基づく炭素コスト相当分の支払いを義務付ける内容だ。

欧州委案では特にカーボンリーゲージのリスクが高い鉄・鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力が対象セクターとなっていたが、欧州議会では有機化学品、プラスチック、水素、アンモニアと、製造過程で使用される電力からの間接的なCO2排出も規制の対象とする修正案が可決された。

準備段階として23年から事業者に当局への報告を求め、26年から実際の支払いを義務付ける。二重の産業保護を回避するため、EU-ETSの無償割当の削減と連動させて段階的に導入を進め、32年にEU-ETSの無償割当を廃止してCBAMへの置き換えを完了する。

また、CBAMの運用にあたり効率性と透明性を確保するため、規則案には全加盟国を統括する新たなEU機関の設置が盛り込まれている。

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