欧州委が財政ルール見直し案発表、柔軟な債務削減可能に

欧州委員会は9日、EUの財政ルールの改正案を発表した。厳しすぎるとされる財政規律を見直し、各加盟国の財政健全化を重視しながらも、柔軟な債務削減を可能とし、地球温暖化対策で必要となる環境投資などの障害にならないよう配慮する内容だ。

EUの財政規律を定めた安定成長協定では、各国に単年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内、累積債務をGDP比60%以内に抑えることを義務付けている。順守できなかった国には厳しい制裁が課される。しかし、各国の事情を考慮し、これまで制裁が発動された例はなく、ルールが形骸化しているのが実情だ。ギリシャの債務危機を未然に防ぐこともできなかった。また、イタリアなど南欧諸国からは規律が厳しすぎ、経済成長に必要な歳出が制限されるという不満も出ている。

こうした状況を受けて、欧州委は2020年2月にルールの総合的な見直しに着手。ルールの簡素化、透明化、将来を見越した投資を促進できるようにルールを柔軟運用することや、制裁制度の在り方などについて諮問作業を行っていた。

公表された改正案では、累積債務がGDP比60%を超えた場合に、超過分の20分の1を毎年削減することを義務付ける規定を撤廃し、各国が独自の債務削減計画を策定できるようにする。

また、各国がどれだけの赤字を抱えているかについて、現行ルールでは構造的赤字を重視しているが、利払いを除くプライマリー収支(基礎的財政収支)に軸を置く方向に転換する。構造的赤字は定義があいまいで、算定が難しく、赤字額を特定する際の基準としてふさわしくないと判断したためだ。

欧州委案では、財政赤字を抱える国はプライマリー収支の改善に取り組み、支出を毎年、適正な水準に設定することで、4年間をかけて赤字が安定的に縮小する軌道に乗るようにする。地球温暖化対策などEUが重視する分野への投資や、債務の持続的削減に向けた財政の構造改革で赤字が拡大した場合は、同期間を7年に延長する。

単年の財政赤字をGDP比3%以内、累積債務をGDP比60%以内とする規定や、これを順守できない国に罰金を科すルールは維持する。ただ、形骸化を避けるため、罰金額を現行ルールより減らした上で、迅速に制裁を科すようにする。

EUでは多くの国がコロナ禍対応で大規模な財政出動を迫られ、赤字・債務が膨らんだ。累積債務はイタリアでGDP比148%、ギリシャでは同186%を超えている。こうした国々に現行の厳しいルールを適用して財政健全化を迫るのは非現実的と判断し、欧州委は今回の提案をまとめた。

欧州委は改正案を加盟国、欧州議会による承認を経て、2023年末までに成立させたい考えだ。厳しいルールの緩和をめぐり、ドイツなど財政規律を重視してきた国々が賛同するかどうかがカギとなる。

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