EUは12月19日のエネルギー相理事会で、天然ガス価格に上限を設ける「市場修正メカニズム」の導入に関する規則案で合意した。上限設定はガス価格の高騰を抑え、域内の企業や家計の負担を抑制するのが狙い。正式な手続きを経て、2023年2月15日から1年間の期限付きで適用される。
市場修正メカニズムは、欧州における天然ガス価格の指標となっているオランダTTFが1メガワット時(MWh)当たり180ユーロを上回り、かつ世界の液化天然ガス(LNG)価格より35ユーロ高い状態が3営業日続いた場合に発動される。上限価格(世界のLNG価格+35ユーロ/MWh)は最低20営業日にわたって適用され、これを上回る価格での取引は成立しない。
欧州委員会が11月に発表した規則案では、TTFが2週間にわたって1MWh当たり275ユーロを上回り、かつ10営業日連続で世界のLNG価格より58ユーロ以上高い状態が続くことが発動要件となっていた。TTFは昨年8月のピーク時に1MWh当たり300ユーロを超えたが、その後は下落傾向が続いて19日には109ユーロ前後で取引されており、こうした動向を踏まえて発動要件が大幅に引き下げられた。
価格上限をめぐっては、南欧や中東欧諸国が導入を強く求める一方、ドイツ、オランダ、スウェーデン、フィンランドなどは、より高い価格で買い取る域外国との調達争いで不利になるなどと主張し、慎重な姿勢を崩さなかった。しかし、上限価格の設定がガスの安定供給に悪影響を与えることがないよう、市場修正メカニズムの停止要件を明確化したことでドイツが容認に転じ、特定多数決で規則案が採択された。なお、ハンガリーは反対票を投じ、オランダとオーストリアは棄権した。
規則案によると、同メカニズムの発動後、世界のLNG価格に35ユーロ/MWhを加えた上限価格が3営業日連続で180ユーロ/MWhを下回った場合や、ガス需給がひっ迫して域内のガス流通が不安定になった場合は上限を撤廃することができる。ガス需要が1カ月で15%、または2カ月で10%拡大した場合や、LNG輸入量やTTFの取引量が急減した場合などが対象となる。