フランス各地で19日、受給開始年齢の引き上げを柱とする年金制度改革案に反対する大規模なデモが行われた。マクロン政権は物価高騰対策で財政赤字が拡大する中、年金制度を維持するために改革が必要だと訴えるが、世論調査では6割以上が反対と回答しており、抗議運動は長期化する可能性もある。
政府が10日に発表した改革案は、受給開始年齢を現行の62歳から段階的に引き上げ、2030年に64歳とする内容。マクロン大統領は65歳への引き上げを目指していたが、組合などの反発を受けて1歳早めた。また、年金の最低支給額を現状より約100ユーロ引き上げ、月額1,200ユーロ(約17万円)とすることも盛り込んだ。
内務省によると、デモの参加者は全土で約112万人に上った。約8万人が参加したパリや南部リヨンでは警官隊との衝突もみられたが、全体として大きな混乱はなかった。
19日にはフランス最大組織の労働総同盟(CGT)など主要8労組の呼びかけで大規模なストライキが行われ、鉄道や地下鉄など公共交通機関が大きく乱れたほか、学校も一部で休校になるなど、各地で市民生活に影響が出た。教育省によると、小学校教員の40%以上、高校教員の3分の1以上がストに加わった。CGTは全土で約200万人がストに参加したとみている。
マクロン氏は訪問先のバルセロナで「さまざまな意見が表明されるのは良いことだ」としたうえで、「年金改革は公正で責任を果たすものだ」と強調。財政健全化に向けて改革が不可欠だとの認識を改めて示し、「経緯と対話の精神、決意をもって遂行する」と述べた。
マクロン政権は1期目の19年にも年金改革を打ち出したものの、燃料増税への反発から全国に広がった反政府デモ「黄色いベスト運動」の高まりで大規模なストライキに直面。20年には新型コロナウイルス感染拡大を理由に、改革をいったん断念した経緯がある。今回のデモ参加者は19年当時の80万人を上回っており、物価高で国民の不満が高まる中、マクロン政権は試練に直面している。次の一斉行動日は1月31日に予定されている。