欧州議会は17日の本会議で、カルテルや市場支配的地位の濫用といった競争法違反行為の被害を受けたEU市民や域内の事業者が、違反企業に対して損害賠償を請求しやすくするための指令案を賛成多数で可決した。指令案は被害者が正当な補償を受けようとする際に直面する実務上のさまざまな問題を取り除くことを目的としたもので、加盟国の競争当局が価格カルテルなどの違反行為を認定した場合、その決定が損害賠償請求訴訟で自動的に競争法違反の証拠として採用されるシステムをEU全体で導入することなどを柱とする内容。閣僚理事会の正式な承認を経て指令案が採択された後、加盟国は2年以内に国内法を整備することが義務付けられる。
価格カルテルなどの被害を受けた個人や事業者が違反企業に対して損害賠償を請求する際、違反行為によりどの程度の損害が生じたかを算定する必要があるが、短期間にこうした「逸失利益」の額を証明することは極めて難しい。さらに訴訟費用もかさむため、実際には賠償請求を断念する被害者も多く、欧州委員会によると、過去7年間に損害賠償請求に至ったケースは全体の4分の1にとどまり、補償されなかった損害額は総額200億ユーロを超えるとされる。欧州委はこうした現状を踏まえ、昨年6月に競争法違反の被害者が正当な補償を受けやすくするための指令案を発表。欧州議会と閣僚理事会で検討が続いていた。
指令案によると、加盟国の裁判所は被害者が補償を求める際、違反企業に対して証拠を開示させる権限を持つ。また、被害者が損害賠償請求訴訟を提起できる期間として、加盟国の競争当局が違反行為を認定してから少なくとも1年の期間が設けられる。さらにカルテルなどの違反行為が価格上昇を招き、その影響がサプライチェーンに及んだ場合、最終的に損害を被ったすべての被害者が損害賠償を請求できる仕組みが導入される。
一方、企業が自ら関与する価格カルテルなどに関する情報を競争当局に提供した場合、当該企業の罰則を軽減する「リニエンシー(課徴金減免)制度」との関連で、当局に通報した企業に対して一定の保護措置を講じる規定が指令案に盛り込まれた。カルテルに参加する企業が多額の損害賠償請求を恐れて当局への情報提供を見送った場合、違反行為の立証が困難になり、結果的に被害者も正当な権利を行使できなくなるためだ。こうした事態を防いでリニエンシー制度を効果的に運用するため、当局に違反行為を通報した企業が提出した証拠書類を被害者が閲覧できないようにするルールが導入される。