欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/11/24

EU産業・貿易

英政府が銀行賞与規制の訴訟取り下げ、欧州裁の見解受け無効化断念

この記事の要約

英政府は20日、銀行員の賞与(ボーナス)を年間給与の最大2倍に制限するEU規制の撤回を求めた訴訟を取り下げると発表した。欧州司法裁判所の法務官が同日、英国の主張には正当性がないとの見解を表明したのを受け、訴えが認められる […]

英政府は20日、銀行員の賞与(ボーナス)を年間給与の最大2倍に制限するEU規制の撤回を求めた訴訟を取り下げると発表した。欧州司法裁判所の法務官が同日、英国の主張には正当性がないとの見解を表明したのを受け、訴えが認められる可能性は極めて低いと判断した。

EUは銀行の短期業績に連動した高額報酬制度がトレーダーなどの過度なリスクテイクを助長し、金融危機を招く一因になったとの認識に立ち、今年1月に賞与規制を導入した。域内に本社や現地法人を置くすべての銀行の取締役、上級管理職、トレーダーなどを対象に、ボーナスの支給額を原則として年間給与と同額に制限するという内容で、株主の承認がある場合は年間給与の最大2倍が上限となる。2014年の業績に基づいて支払われる来年のボーナスから適用される見通しだが、世界有数の金融センターを抱える英国は最後まで規制の導入に反対し、昨年9月にEU司法裁に対し規制の無効化を求める訴えを起こした。

英政府は報酬規制の弊害として、銀行は人材流出を防ぐため基本給を引き上げることになり、結果として報酬全体の水準を押し上げることになるうえ、業績が悪化している時でも高い固定給を支払わねばならず、銀行システムの不安定化につながると指摘。また、銀行報酬制度へのEUの介入は、基本条約に定められた権限を逸脱していると主張していた。

欧州裁のヤースキネン法務官は20日、EUの報酬規制は「固定給に対するボーナスの比率」を規定したもので、基準となる固定給に上限は設けていないため、「ボーナスそのものを制限したものではない」との見解を表明。さらに、過度のリスクテイクにつながる銀行報酬制度は欧州における金融システムの安定を脅かす危険があるため、EU全体で対処すべき問題だと指摘した。法務官の見解に法的拘束力はないが、欧州裁は大半のケースで勧告に沿った判決を下している。

オズボーン財務相は法務官見解を受け、「成功の見込みが薄い訴訟に税金を費やすことはしない」との声明を発表。司法裁に対する訴えを取り下げる意向を明らかにしたうえで、「結果的に報酬レベルを引き上げる悪しきルール」による影響を最小限に抑えるための対策を講じる必要があると指摘した。財務省の報道官は「ボーナス以外の固定給も対象とした新たな基準の策定が必要かもしれない」と述べている。

バークレイズやHSBCホールディングスをはじめとする英国の大手銀行は賞与規制に伴う人材流出を防ぐため、給与とは別に規制対象とならない定額報酬として諸手当を支給する制度を導入している。こうした動きを受け、欧州銀行監督機構(EBA)は先月、域内で活動する39の大手銀行が幹部行員に「役職に連動した特別手当」を支給することで、EUの規制をすり抜けているとの調査結果を公表。EBAは該当する銀行に対し、12月31日までに賞与規制に沿って報酬制度を是正するよう求めると共に、各国当局に対して必要な措置を講じるよう勧告している。