欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/1/19

西欧

スイス中銀が無制限介入中止、スイスフランが急騰

この記事の要約

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は15日、スイスフラン高を阻止するために行ってきた無制限のユーロ買い政策を中止すると発表した。SNBは同政策の堅持方針を先ごろ強調したばかりで、方針転換は予想外。発表は市場に衝撃をもたら […]

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は15日、スイスフラン高を阻止するために行ってきた無制限のユーロ買い政策を中止すると発表した。SNBは同政策の堅持方針を先ごろ強調したばかりで、方針転換は予想外。発表は市場に衝撃をもたらし、フラン相場は急騰した。

SNBはスイス経済の支柱である輸出、観光産業を支えるため、2011年9月にフランの上限を1ユーロ=1.20フランとする「防衛ライン」を設定。ユーロが同水準を割り込んだ場合は無制限にユーロ買い介入を行い、フラン高を食い止めてきた。市中銀行がSNBに預ける要求払い預金にマイナス金利を適用することを明らかにした昨年12月18日の時点でも、無制限介入方針を堅持していた。

SNBがフランの上限ライン撤回を現地時間10時半に発表すると、為替レートは短時間で1ユーロ=1.20フランから同0.85フランへと急落。下げ幅は史上最高の約30%に達した。

 SNBが上限政策を撤回したのは、同政策の継続に伴うリスクが大きくなりすぎたためだ。

ユーロ買い介入を3年以上にわたって行ったことで、SNBの外貨保有高は約5,000億フランに達した。対GDP比率は7割超と極めて高い水準にある。原油安の影響によるロシアの通貨ルーブルの急落などを背景に、安全資産とされるフランを買う動きは加速しており、上限政策を続ける限り、外貨保有高はさらに増え、同中銀のバランスシートは膨張。保有する外貨の価値が大きく下落すれば、巨額の評価損を計上することになる。SNBに金保有の拡大を義務づけることを求める国民投票が昨年11月に行われたのはこうした事情があるためだ。

欧州中央銀行(EBC)が22日の理事会で量的緩和を決定する可能性が濃厚となっていることもあり、SNBは上限放棄を余儀なくされた格好。ECBが量的緩和に踏み切るとユーロ相場の下落が加速するため、1ユーロ=1.20フランの上限ラインを維持すればSNBはユーロ買いを拡大せざるを得ず、バランスシートのリスクは一段と高まることになる。

SNBは今回、市中銀行が中銀に預け入れる預金のマイナス金利幅を22日付で現在の0.25%から0.75%に引き上げることも明らかにした。上限ラインの放棄に伴うフラン高を抑制することが狙いで、最重要政策金利とする3カ月物ロンドン銀行間貸出金利(LIBOR)の誘導目標値も従来のマイナス0.75~同0.25%からマイナス1.25~同0.25%へと引き下げた。これらの政策により急速に進んだフラン高が時間の経過とともにある程度、緩和されることを期待している。

フラン急騰を受けてスイス企業の株価は大きく落ち込んだ。輸出、環境産業が大きな痛手を受けるためで、スイスの主要株価指数SMIは同日8.67%下落。時計大手スウォッチは下げ幅が16.1%に達した。同社のニック・ハイエク社長は「SNBは津波を引き起こした」と述べ、突然の政策転換を批判した。