欧州中央銀行(ECB)は22日に開いた定例政策理事会で、初の量的金融緩和の実施を決めた。デフレ回避を主眼としたもので、ユーロ参加国の国債などを3月から毎月600億ユーロ買い取る。実施期限は2016年9月で、買い取る資産の総額は1兆1,000億ユーロに達する見通しだ。
ECBはユーロ圏の低インフレ、景気減速を受けて昨年9月に追加利下げを実施し、最重要政策金利を過去最低となる0.05%に引き下げ、22日の理事会で金利を同水準に据え置いた。また、新たな長期資金供給オペ(LTRO)と資産担保証券(ABS)、担保付き債券(カバードボンド)の買い入れも実施しているが、日、米、英のような国債を買い取る量的緩和は見送ってきた。ドイツなどがECBによる国債購入はギリシャなど重債務国の危機感を弱め、財政健全化を遅らせかねないとして反対していたことが背景にある。
しかし、これまでの金融緩和の効果が薄く、ユーロ圏の景気も停滞していることから、ドラギ総裁は昨年末、15年の早い時期に量的緩和を実施する意向を表明。12月のインフレ率が5年2カ月ぶりのマイナスとなったこともあって、今回の理事会で量的緩和導入に踏み切るのは確実とみられていた。
量的緩和は市中に出回る資金を増やして景気を活性化し、インフレ率を2%前後まで引き上げるのが狙い。ユーロ安が進むことによる輸出拡大効果も見込む。ドラギ総裁が理事会後の記者会見で明らかにしたところによると、国債のほかEUの機関が発行する債券、社債をユーロ圏各国の中央銀行と連携して買い取る。量的緩和は16年9月を期限としているが、ドラギ総裁はインフレ率が目標水準に達しない場合は延長する方針を示した。
買い取った国債などが不良債権化した場合などの損失の負担は、ユーロ圏19カ国の中央銀行が80%、ECBが20%となる。
月600億ユーロという額は、すでに買い取りを実施している資産担保証券、担保付き債券を含めた額。取り沙汰されていた500億ユーロを上回る規模だ。ECB筋がブルームバーグに語ったところによると、買い取り額は国債が450億ユーロと大半を占めるという。
投資不適格級となっているギリシャ国債は購入対象外となるが、ギリシャがEUによる財政監視に引き続き応じることを条件に、組み込む可能性があるとしている。
ECBが異例の量的緩和に踏み切ったことを市場は歓迎しており、同日に欧州株は急騰。ユーロ圏の国債も値上がりし、イタリアの10年物国債の流通利回りは23日、初めて1.5%を割り込んだ。また、ユーロはギリシャの総選挙で反緊縮派が勝利し、ユーロ危機が再燃する懸念が広がっていることもあって、23日に11年ぶりの安値となる1ドル=1.111ユーロまで下がった。
デンマーク、通貨高対策で利下げ
一方、デンマーク中央銀行の国立銀行は22日、ECBの量的緩和で通貨クローネが対ユーロで上昇するのを防ぐため、主要政策金利を0.15ポイント引き下げ、過去最低のマイナス0.35%にすると発表した。
EU加盟国だがユーロに参加していないデンマークは、為替をユーロに連動させるペッグ制を採用しており、1ユーロ=7.46クローネが目標水準となっている。中銀はスイス中銀の国立銀行がスイスフラン高・ユーロ安を抑えるために導入していた為替の無制限介入の終了を先ごろ発表し、ユーロ安が加速したことを受けて、19日に0.15ポイントの利下げを発表したばかり。ECBの量的緩和によるクローネ上昇を阻止するため、再利下げを迫られた。
市場ではクローネ上昇圧力が強まるのは必至で、デンマークのペッグ制維持は難しくなるとの見方が出ている。