欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/2/2

EU産業・貿易

銀行構造改革案が暗礁に、英独仏は各国の裁量権拡大を要求

この記事の要約

大手銀行を高リスク取引から隔離することを目的とした銀行構造改革案をめぐる調整が暗礁に乗り上げている。銀行が自らの利益のためにリスクの高い金融商品を売買する「自己勘定取引」の禁止などを盛り込んだ規則案に対し、英仏独は各国当 […]

大手銀行を高リスク取引から隔離することを目的とした銀行構造改革案をめぐる調整が暗礁に乗り上げている。銀行が自らの利益のためにリスクの高い金融商品を売買する「自己勘定取引」の禁止などを盛り込んだ規則案に対し、英仏独は各国当局により広い裁量権を与えるよう求めており、銀行業界も誤った改革によって流動性リスクが生じ、EUが目指す域内資本市場の統合が遠のくと警告している。

欧州委員会は昨年1月、金融システムの安定化に向け「大きすぎてつぶせない銀行」のリスクに対処するため、銀行セクターの構造改革に関する規則案を打ち出した。フィンランド中央銀行のリーカネン総裁を座長とする有識者グループが2012年にまとめた報告書(リーカネン・レポート)を土台に策定したもので、米国の「ボルカー・ルール」のEU版と位置付けられる。新ルールの適用対象は「世界の金融システムに影響を及ぼす重要な銀行」で、EU域内で活動する約30行がこれに該当する。

リーカネン・レポートは同じ銀行グループ内で「リスクの高い特定の業務と預金業務を法的に分離する必要がある」と結論づけ、大手銀行に高リスク取引の分離を義務付けることを提案していた。しかし、銀行業界は高リスク業務の完全分離が義務付けられた場合、融資が阻害されて実態経済に影響が及ぶなどと主張し、厳格な規制に強く反対。欧州委は最終的に◇顧客向けの業務を伴わず、銀行が自らの利益を確保する目的で行う自己勘定での高リスク取引を禁止する◇各国の監督当局に対し、個々の銀行による特定の取引がシステミックリスクを引き起こす可能性があるかどうかの判断に基づいて、個別にマーケットメーキング(値付け)、複雑なデリバティブ(金融派生商品)取引、証券化商品への投資など、リスクの高い業務の分離を命じる権限を与える――を柱とする規制案をまとめた。

 規則案は高リスク業務の分離義務ルールをめぐり、すでに類似した国内法を制定している加盟国についてはEUルールの適用を除外するとの規定を盛り込んでいる。これは預金の受け入れを中核とするリテール業務と投資銀行業務を分離する、いわゆる「リングフェンス」を柱とする銀行改革法(「ビッカーズ改革」)を制定した英国を念頭に置いたものだが、加盟国の法律家で構成する専門委員会は昨年6月、適用除外を認める規定はEUルールがすべての国内法に優先するとの原則に反するとの見解をまとめている。

一方、フランスとドイツは13年、自己勘定取引やヘッジファンドへの投資など、リスクの高い業務を預金業務から分離することを義務づけるルールを定めており、自己勘定での取引自体を一律に禁止するルールの導入に強く反対している。

英仏独はそれぞれの事情から足並みを揃え、欧州委が打ち出した改革案を域内共通の統一ルールとしてすべての国に効力を持つ「規則」ではなく、国内法への置き換えが必要な「指令」に格下げして各国当局の裁量権を拡大するよう求めている。欧州中央銀行(ECB)は強制力を持つ統一ルールが不可欠との立場から欧州委の提案を支持しているが、英仏の銀行連盟は欧州委のヒル委員(金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当)に対し、規則案の破棄を求めて圧力を強めているとされる。

EU議長国ラトビアは妥協点を探るため、30日に英仏独にスウェーデンとオランダを加えた5カ国と協議するなど調整に乗り出しているが、意見集約は難航を極めている。