欧州議会とEU議長国ラトビア、欧州委員会は6月30日、域内の他の国で携帯電話を使用する際に徴収されている国際ローミング(相互接続)料金を2年以内に廃止する法案の内容で合意した。これによりEU市民は域内のどこに移動しても、自国と同じ料金水準で通話やデータ通信などのサービスを利用できるようになる。欧州議会と閣僚理事会の正式な承認を経て新ルールが導入される。
EUでは2007年6月に採択された「携帯電話のローミングに関する規則」に基づき、域内の他の国で音声通話、ショートメッセージサービス(SMS)、データ通信を利用する際のローミング料金が段階的に引き下げられている。欧州委員会は通信分野における単一市場の創設を目的とした規制改革の一環として、事業者に対して16年末までに国際ローミング料金の廃止を義務づける規制案を提示。消費者保護の立場から前倒し実施を求める欧州議会と、事業者側の負担に配慮して早期実施に反対する加盟国の間で意見調整が続いていた。
3者協議での合意によると、事業者は原則として17年6月15日までにローミング料金を廃止しなければならない。撤廃に向けた段階的措置として、16年4月から通話時のローミング料金を1分当たり最大0.05ユーロに制限するほか、ショートメッセージングサービス(SMS)は1件当たり0.02ユーロ、データ通信は1メガバイト当たり0.05ユーロが上限となる。
なお、携帯電話料金の安い国でSIMカードを購入し、別の国で恒常的に利用するといったケースを防ぐため、事業者は予め通信容量の上限値を設定し、利用した通信量がその範囲を超えた場合はローミング料金を上乗せすることが認められる。ただし、他社の回線を使用する際に事業者が支払うホールセール料金を超えてはならない。
一方、法案にはインターネット接続事業者(ISP)が自社と競合するサービスに対して意図的に通信速度を遅くしたり、データ通信量を制限するなどの差別的行為を禁止する「ネットワーク中立性」の原則も盛り込まれた。ただし、テレビ会議や手術など「一定水準の品質を要求するサービス」に関しては、一般的なインターネット接続に支障が出ないことを条件に、追加料金を徴収する見返りとして高速接続を優先的に提供する(いわゆる「ファストレーン」)などの取り決めが認められる。また、サイバー攻撃への対処などを目的とする場合はトラフィックのブロックや制限が認められるなど、先に米国で導入されたネット中立性の新規則と比べて緩やかな内容になっている。ネット中立性ルールは16年4月から導入される。