欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/9/21

EU情報

ISDS条項に代わり「投資裁判所」創設、TTIP交渉で欧州委が提案へ

この記事の要約

欧州委員会は16日、EU・米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉で焦点になっている投資保護規定をめぐり、外国企業と投資受入国の間の紛争処理にあたる「投資裁判所」を創設する構想を発表した。TTIPに盛り込む方向で議 […]

欧州委員会は16日、EU・米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉で焦点になっている投資保護規定をめぐり、外国企業と投資受入国の間の紛争処理にあたる「投資裁判所」を創設する構想を発表した。TTIPに盛り込む方向で議論してきた「投資家対国家の紛争解決(ISDS)」条項に代わり、EUと米国および第3国によって選ばれた裁判官が常駐する二審制の裁判制度を導入するという内容。EU加盟国と欧州議会での議論を経て、米側に投資裁判所の創設を提案する。

EUと米国は貿易と投資に関するあらゆる障壁の撤廃を目指し、2013年7月にTTIP交渉を開始した。当初は2014年末までの大筋合意を目指していたが、食品・医薬品・自動車などの安全基準、環境保護や個人情報保護などに関連した規制の調和などをめぐって協議が難航している。

最大の争点となっているISDS条項は、投資先の法律や制度が変更されたことで外国企業が損害を受けた場合、その企業が当該国を相手に中立的な国際機関に仲裁を申し入れ、制度の廃止や賠償を請求する権利を認める規定。海外で活動する企業にとってメリットがある反面、国家の規制権限が制限される側面もあるため、EU内ではTTIPに同条項が導入された場合、幅広い分野でEU側が譲歩を迫られ、結果的に消費者が不利益を被るといった懸念が広がっている。欧州委はこうした現状を踏まえ、ISDS条項に代わる公正で透明性の高い紛争解決の仕組みについて検討を進めていた。

ISDSのメカニズムでは事案ごとに仲裁人が選定され、当事者は裁定に対して不服申立てを行うことはできない。これに対し、欧州委は二審制を導入し、EU加盟国と米国、さらに第3国出身の裁判官が常駐する「一審裁判所」と「控訴裁判所」を創設することを提案している。一審裁判所はEU・米・第3国から5人ずつの計15人、控訴裁判所はそれぞれ2人ずつの計6人の裁判官で構成され、事案ごとに3人の裁判官を無作為に選ぶ仕組み。裁判官には国際司法裁判所の裁判官や、世界貿易機関(WTO)紛争処理上級委員会の委員などと同等の高度な専門性が求められる。

一方、欧州委は日本との経済連携協定(EPA)など、米国以外の国との貿易・投資協定の締結交渉でも同様の制度を提案する方針で、TTIP交渉と並行して関係国と「国際投資裁判所」の創設に向けた協議を開始したい考えを示している。

欧州委のマルムストロム委員(通商担当)は「加盟国や欧州議会などの協議を通じ、従来のISDSには中立性と公正性に対する信頼が欠けていることが明らかになった。私的仲裁機関に依存する現行システムに代わり、公的な法廷制度を導入する必要がある」と強調。透明性を確保するため裁判はすべて公開で行い、訴訟記録もオンライン上で開示する考えを示した。