欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/12/7

EU情報

加盟国が航空旅客データ共有法案で合意、アクセス制限などで欧州議会に譲歩

この記事の要約

EU加盟国は4日、ブリュッセルで内相理事会を開き、テロ対策の一環として、旅客機の乗客予約記録(PNR)を加盟国が共有する制度を導入するための法案の内容で合意した。EUと域外を結ぶすべての便について、航空会社に旅客情報の提 […]

EU加盟国は4日、ブリュッセルで内相理事会を開き、テロ対策の一環として、旅客機の乗客予約記録(PNR)を加盟国が共有する制度を導入するための法案の内容で合意した。EUと域外を結ぶすべての便について、航空会社に旅客情報の提供を義務づけ、各国当局がデータを共有してテロ防止に役立てる。来年初めにも欧州議会が法案を採択する見通しだ。

航空会社は航空券の予約や搭乗手続きの際に乗客の氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報などの個人情報を収集しており、米国は2001年9月の同時多発テロ以降、国内を離発着する航空会社にこうしたデータの提供を義務づけている。EUも12年に米国との間でPNRの提供に関する協定を結んだが、EUとして航空会社に搭乗者情報の提供を義務づけ、各国当局がデータを共有するシステムは構築されていない。欧州委員会は11年2月、テロや国際犯罪の防止・発見・捜査・起訴に役立てる目的で、航空会社にPNRの提供を義務づける制度の導入を提案したが、個人情報保護を重視する欧州議会が難色を示し、協議が長引いていた。しかし、欧州でイスラム過激派によるテロの脅威が増すなか、導入を急ぎたい加盟国と欧州議会の間で妥協点を探る動きが活発化し、ようやく合意にこぎつけた。

最終的な法案によると、旅客情報の提供が義務づけられるのはEUと域外を結ぶ航空便だが、加盟国は必要に応じてEU域内を結ぶ便についても航空会社に情報提供を要求できる。提供されたデータは5年間保管される。ただし、個人情報保護の観点から、6カ月が経過した時点でデータを加工し、裁判所の許可がなければ情報を閲覧できないようにする。

一方、内相理事会では深刻化する難民危機への対応策として、欧州26カ国をパスポート審査なしで移動できる「シェンゲン協定」の見直し案についても話し合われた。同協定では「治安上の差し迫った懸念」がある場合、加盟国は最大6カ月まで一時的に国境審査を復活させることができる。会議では増え続ける難民の流入に対処するため、9月から国境審査を実施しているドイツなどから上限を最大2年とするよう求める意見が出されたもよう。EU議長国ルクセンブルクのアッセルボーン外務・欧州問題・移民担当相は会議後の会見で、「加盟国は深刻な問題が発生した場合、6カ月を超えて一致した対応を取る必要があるとの認識で一致した」と述べ、国境審査の長期化を認める方向で協議が進んでいることを明らかにした。