欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/12/14

EU情報

国境越えたデジタルコンテンツへのアクセス可能に、欧州委が法案発表

この記事の要約

欧州委員会は9日、EU市民が域内のどこにいても、加入しているコンテンツ配信サービスを利用できるようにするための法案を発表した。国境を越えたデジタルコンテンツの流通を促す取り組みの一環で、旅行や商用などで一時的に域内の他の […]

欧州委員会は9日、EU市民が域内のどこにいても、加入しているコンテンツ配信サービスを利用できるようにするための法案を発表した。国境を越えたデジタルコンテンツの流通を促す取り組みの一環で、旅行や商用などで一時的に域内の他の国に滞在する際、自国にいる時と同じ条件で映画やテレビ、音楽、ゲーム、電子書籍などのデジタルコンテンツにアクセスできるようにするという内容。EUは2017年6月までに携帯電話のローミング(相互接続)料金を撤廃することを決めており、欧州委は欧州議会と加盟国の承認を経て同年中の新ルール導入を目指す考えを示している。

欧州委は今年5月、デジタル単一市場の創設に向けてEUが取り組むべき重点政策をまとめた戦略文書を発表した。EUが成長戦略の柱と位置付ける高速インターネットを基盤とする経済活動(デジタル経済)を活性化させるため、幅広い分野で国ごと異なる規制や制度を見直し、国境を越えたオンライン取引やコンテンツ流通を妨げる障壁を取り除くことに主眼を置いた内容で、欧州委はその一環としてデジタル社会に即した著作権法の策定を進めている。国境を越えたデジタルコンテンツへのアクセス(ポータビリティ)に関する新ルールはその第1弾で、欧州委は来春をめどにEU共通の著作権ライセンスの導入や、国境を越えたテレビ/ラジオ番組のオンライン配信を容易にするための法案をまとめる方針を示している。

今回の提案は米ネットフリックスやアマゾン・プライムなどの動画配信サービスや、英衛星放送大手スカイが英国、ドイツ、イタリアで展開するスポーツ専門のストリーミングサービスなど、定額制のコンテンツ配信サービスを対象としたもので、ユーザー登録せずに利用できる動画共有サービスのユーチューブなどは含まれない。たとえばネットフリックスに加入しているオランダ在住の会員がフランスを旅行する際、現行システムではネットフリックスがフランスの会員向けに提供しているコンテンツしか視聴できない。これはコンテンツ提供者が特定の地域以外での配信を許可していない場合、ユーザーとサービス提供者の地理的関係によってオンラインサービスへのアクセスが制限される「ジオ・ブロッキング」によるもの。欧州委は域内の他の国での「一時的な滞在」について、こうした地理的制限を禁止し、ユーザーが自国にいる時と同じサービスを受けられるようにすることを提案している。ただし、「一時的」に該当する期間の上限は設定していない。

欧州委のアンシプ副委員長(デジタル単一市場担当)は「コンテンツ配信サービスの加入者が域内のどこにいても自国にいる時と同じサービスを受けられるようにしたい。デジタルコンテンツへの国境を越えたアクセスはEU市民の新たな権利だ」と強調。エッティンガー委員(デジタル経済・社会担当)は「デジタルコンテンツのポータビリティに関する提案は、国ごとに異なる複雑な著作権ルールの抜本的な見直しの第一歩にすぎない。デジタル単一市場の実現に向け、16年中に制度改革の核となる法案を提示する」と述べた。