欧州委員会は16日、確実で安定したエネルギー供給をEU全体で確保するための包括的なエネルギー安全保障に関する法案を発表した。国境をまたいだエネルギー供給網の整備、エネルギー資源や供給ルートの多様化、再生可能エネルギーを含む域内でのエネルギー増産など広範な措置が盛り込まれているが、現在の地政学的環境やエネルギー分野におけるロシア依存の現状を踏まえ、とくに天然ガスの供給途絶に対する耐性強化に主眼を置いた内容になっている。
欧州委によると、EUはエネルギーの輸入依存度が53%に上り、年間の輸入額は約4,000億ユーロに達する。このため米国と比べてホールセールのガス料金は2倍以上、電力料金も30%ほど高く、域内の消費者と企業にとって大きな負担になっている。さらにバルト3国とフィンランド、スロバキア、ブルガリアは国内のガス需要をロシアからの輸入に100%依存しており、エネルギー安全保障の観点から脱ロシア依存がEUにとって急務になっている。エネルギー供給問題はこれまで基本的に各国の権限に任されてきたが、ウクライナ情勢をめぐるロシアとの対立などを念頭に、EU全体として統一された政策を実施する必要に迫られている。
欧州委がまとめた法案の柱は、ガス供給の安全保障に関する規則案。EU全体で安定的なガス供給を確保するため、従来の国別アプローチからEUとしての統一されたアプローチに転換し、「連帯」の原則を導入してある国が供給不足に陥った場合、近隣諸国が融通しあって医療サービスなどに深刻な影響が及ばないようにする。そのための具体策としてEU域内を9つの地域に分割し、国境をまたいだガスパイプラインやガス貯蔵施設の建設を進める。
一方、欧州委の提案によると、加盟国が第3国とエネルギー供給契約を締結する際、欧州委が事前に政府間合意の内容を精査し、当該契約にEU競争法に抵触する条項などが含まれていないかどうかチェックする制度を導入する。これはロシアの国営ガス会社ガスプロムが中・東欧における独占的な地位を利用して、ロシアからEU諸国に輸入されたガスの再輸出を制限したり、競争相手を市場から締め出す内容の条項を契約に盛り込み、ガス供給ルートの多様化を阻害したり、ガス価格を不当につり上げていた問題を踏まえた措置だ。