欧州委員会は26日、欧州航空宇宙大手エアバスと同業の仏サフランの合弁会社でロケット開発・製造を手がけるエアバス・サフラン・ランチャーズ(ASL)が、商業衛星打ち上げ会社アリアンスペースの経営権を取得する計画について、EU競争法に基づく本格調査を開始したと発表した。両社の取引を認めた場合、宇宙・衛星事業や打ち上げ事業で公正な競争が阻害され、価格上昇や技術革新の停滞などの弊害を引き起こす恐れがあると判断した。欧州委は計画を精査し、7月12日までに結論をまとめる。
アリアンスペースは欧州の大型主力ロケット「アリアン5」のほか、中型ロケット「ソユーズ」や小型ロケット「ヴェガ」を運用しており、人工衛星の商業打ち上げで最大シェアを持つ。米国の起業家イーロン・マスク氏率いる宇宙開発企業スペースXが攻勢を強めるなか、欧州では現在、アリアン5の後継機「アリアン6」の開発が進められており、そのための体制づくりの一環として、エアバスとサフランは2014年12月、折半出資の合弁会社ASLを設立した。
アリアンスペースは経営基盤をスリム化して競争力を高めるため、欧州の航空宇宙産業各社が保有していた同社株式をASLに集約。ASLはアリアンスペースの株式41%を保有する筆頭株主となった。さらにアリアンスペースは昨年6月、フランス国立宇宙研究センター(CNES)が保有する同社の株式35%をASLに譲渡することで仏政府などと合意。これにより、アリアンスペースに対するASLの出資比率は76%に引き上げられる。
欧州委はASLがアリアンスペースの株式を追加取得して同社の経営権を握った場合、エアバスと競合関係にある衛星事業者がアリアンスペースの打ち上げサービスを利用する際、価格面や技術情報へのアクセス、打上げ枠の配分などで不利な立場に置かれる可能性があると指摘。また、ASLがアリアンロケットの開発・製造を担っていることから、アリアンスペースが同ロケットの打ち上げを優先し、結果的にヴェガとソユーズを製造する伊ELVとロシアのTsSKBに損害が及ぶ事態を懸念している。さらに衛星とロケットを結合する衛星アダプタなど、衛星搭載部品の調達でもエアバスとASL以外のメーカーが市場から締め出される恐れがあるとみている。
欧州委のベスタエアー委員(競争政策担当)は「宇宙産業はEUの産業基盤を強化し、国際競争力を高めるうえで重要な鍵を握る。そのため、同分野で活動するすべてのプレイヤーが技術開発のインセンティブを持ち続けることができるビジネス環境かどうかを確かめる必要がある」とコメントした。