欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/6/16

EU産業・貿易

欧州委がアイルランドなどの優遇税制を調査、アップルなど課税逃れの疑いで

この記事の要約

欧州委員会は11日、アイルランド、オランダ、ルクセンブルクが多国籍企業の誘致を目的に導入している税制上の優遇措置について本格調査を開始したと発表した。米アップルやスターバックスなどに適用している優遇税制が、特定の企業に対 […]

欧州委員会は11日、アイルランド、オランダ、ルクセンブルクが多国籍企業の誘致を目的に導入している税制上の優遇措置について本格調査を開始したと発表した。米アップルやスターバックスなどに適用している優遇税制が、特定の企業に対する資金支援を厳しく制限したEUの国家補助規定に違反していないか慎重に調査する。

EU内では米国に本社を置く多国籍企業が収益に応じた税金を納めていないとの批判が高まっており、3カ国に対する調査はEUとして税逃れ防止に取り組む姿勢を内外に示す狙いがある。欧州委のアルムニア副委員長(競争政策担当)は声明で、「とりわけ現在のような厳しい財政状況下では、多国籍企業が応分の税金を納めることが重要だ」と指摘。シュメタ委員(税制担当)は「単一市場や加盟国の持続可能な財政運営、企業間の公正な競争を実現するうえで、公平な税制を確保することが不可欠だ。そのためにEUとしてできることをすべてやる」と強調した。

欧州委はアップルに対するアイルランド、スターバックスに対するオランダ、伊自動車大手フィアットの金融子会社フィアット・ファイナンス・アンド・トレードに対するルクセンブルクの優遇措置について調査を実施する。アイルランド政府は優遇税制を適用して多国籍企業の誘致を推進しており、アップルに対しては通常12.5%の法人税を2%以下に抑える措置が取られていたとされる。米議会が昨年まとめた報告書によると、同社はアイルランド子会社との取引価格を操作して同国に利益を集中させる仕組みを構築し、これが巨額の課税逃れにつながったとみられている。一方、スターバックスはコーヒーの製法に関する知的財産権や商標権の使用料をオランダの欧州本社に納めるなど、「特殊な会計手法」を用いて英国事業を赤字にみせかけ、長年にわたり課税を回避していたことが明るみに出た。さらにルクセンブルクは法人税率を29%に設定しているが、フィアット・ファイナンスと会計上の処理について事前に取り決めを交わし、実際には極めて低い税率を適用している。

欧州委によると、誘致を目的とした税務当局と企業の間の取り決め自体は違法ではないものの、初期段階の分析を通じ、特定の企業を優遇することで公正な競争が阻害されているとの見方を強めている。調査ではアップルなどに適用されている法人税率の計算方法などが焦点になる見通しだ。また、EU内では3カ国以外でも特定の企業に対して広く法人税の優遇措置が適用されているとみられ、グローバル企業による税金逃れに対して国際的な批判が高まるなか、欧州委の調査が広範囲に及ぶ可能性もある。

今回の動きに対し、アップルはアイルランド当局から特別な優遇措置は受けた事実はないと表明。アイルランド財務省は「EUの国家補助規定に違反していないと確信している」との声明を発表した。オランダ財務省の高官も、同国がEUルールに違反していないことが欧州委の調査で明らかになるだろうとコメントしている。ルクセンブルク当局、スターバックス、フィアットはコメントを控えている。