2020/9/14

EU情報

EUと英が離脱協定修正めぐり対立、FTA交渉の新たな障害に

この記事の要約

EUと1月末にEUを離脱した英国の対立が激化している。英政府が9日、発効済みの「離脱協定」の一部に修正を加える国内法案を議会に提出したためだ。EU側は国際法に違反するなどとして猛反発し、法案を撤回するよう要求。同問題が障 […]

EUと1月末にEUを離脱した英国の対立が激化している。英政府が9日、発効済みの「離脱協定」の一部に修正を加える国内法案を議会に提出したためだ。EU側は国際法に違反するなどとして猛反発し、法案を撤回するよう要求。同問題が障害となり、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉も進まず、期限内に合意できない懸念が一層強まってきた。

英政府が修正しようとしているのは、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理に関する部分。離脱協定では北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づき、離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにするため、北アイルランドが英国の関税区になると同時に、工業製品と農産品についてはEUの関税ルールも適用することを取り決めた。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残る形となる。これによって税関検査は北アイルランドとアイルランドの間では行われない。

ただ、同制度では通関手続き上の国境がアイルランド島と英本土にはさまれたアイリッシュ海に引かれ、英本土から北アイルランドに流入する物品についてはEUの関税が適用されないものの、北アイルランド経由でアイルランドなどEUに輸出する目的で入ってきたものは課税される。

英政府が提出した法案は、EUとのFTA交渉が決裂した場合、英本土から北アイルランドに入る物品の関税ルールを英国の裁量で決めるという内容。北アイルランド経由でアイルランドに輸出される物品が、英国にとって有利な無関税となる可能性がある。

これに反発するEUは、欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長が10日、ロンドンでゴーブ英国務相と緊急会談し、同問題について協議。同副委員長は国内法案について、離脱協定だけでなく国際法に違反するもので、英国とEUの信頼関係に「深刻なダメージを与える」として撤回を迫り、9月末までに撤回されなければ提訴も辞さない構えを示した。

英国側はルイス北アイルランド相が8日に下院で、同法案が国際法に違反すると認めながらも、「極めて限定された形での違反」で、前例があると答弁。離脱協定に盛り込まれた合意内容を履行する義務は、それが英国の国内法に明記されている場合に限って生じるとして、法案に問題はないとの見解を示していた。

ゴーブ国務相は緊急会談で、こうした説明に加えて、同法案はFTAが締結されない場合に北アイルランドと英本土との物品の自由な往来が妨げられないようにするのが目的として理解を求めたが、シェフチョビッチ副委員長は受け入れなかった。

英ジョンソン首相は7日、難航しているEUとのFTA交渉について、合意期限を10月15日にすると発表。続いて同法案を提出した。EU側に揺さぶりをかけ、交渉で譲歩を引き出す意図があると目されている。しかし、EU側に折れる気配はなく、逆に態度を硬化させる結果を招きつつある。8日から10日にかけて行われた双方の主席交渉官による協議も、EU側が大きな争点となっている公平な競争環境の確保、英海域でのEU加盟国の漁業権維持を要求して譲らず、進展がないまま終了した。

さらに、ジョンソン政権の動きには英国内でも批判が出ており、法務当局の高官が国内法案提出に抗議して辞任。議会や法曹関係者らの間でも、英国の国際的な信用が失墜するとして懸念する声が多い。それでもジョンソン首相は強行する姿勢で、英議会は14日に国内法案の審議に入る予定だ。

EUと英国は、離脱後の急激な変化を回避するため設けられた移行期間が終了する2020年12月末までにFTAを締結させるためには、10月15、16日に開かれるEU首脳会議までの合意が必要な状況だ。主席交渉官による今回の協議では、引き続き交渉を進めることで一致したが、国内法問題が新たな障害となるのは確実で、混迷が深まっている。