ユーロ圏19カ国は11月30日に開いた財務相会合で、ユーロ圏の金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)の機能強化について最終合意した。これによってESMの資金をユーロ圏の銀行の救済にも活用できるようにする制度が2022年に導入されることが決まった。
ESMの機能強化は、欧州委員会が17年に発表したユーロ圏の統合深化に向けた機構改革案に盛り込まれたもの。金融危機に陥った国に支援を行うために創設されたESMの機能を拡大し、ユーロ圏の銀行の破綻処理に活用される「単一破綻処理基金(SRF)」の資金が不足した場合に銀行救済にも活用できる仕組みを設けるという内容だ。ただし、不良債権の減少など、ユーロ圏の銀行が抱えるリスクが減ることを前提としている。
同案は19年12月に開かれたユーロ財務相会合で原則的に承認されたものの、関連条約の改定をめぐる調整などでつまずき、最終合意に至っていなかった。ドイツなどが南欧諸国の銀行の不良債権が多いことを問題視していることも障害となっていた。
問題となっていたのは、集団行動条項(CAC)の改定。CACはESMに関する条約に付帯されているもので、国債の債権者の一定数が合意すれば、償還期限や利回りなどを変更できるようにする仕組みだ。財政に問題があるユーロ参加国の迅速な債務再編を進める狙いがある。現在は銘柄ごとに債権者の合意が必要となるが、改定によってユーロ圏各国が今後新たに発行する国債については同条件をなくし、債務再編に向けた手続きを簡素化する。
同条項改定をめぐっては、ユーロ圏でギリシャに次ぐ巨額の債務を抱えているイタリアが、政府の意思に反して債務再編を迫られるとして難色を示し、ユーロ圏共通の預金保険保証制度(EDIS)導入が決まらない限り、同意しない姿勢を維持していた。
EDISをめぐっては、ドイツ政府が自国で集めた資金を金融システムが脆弱なユーロ圏の他の国の預金者保護のため使うことになるとして抵抗し、実現がずれ込んでいる。それでも、今回の財務相会合では、イタリアがESMの機能強化を優先して譲歩し、改定案を受け入れた。また、各国がユーロ圏の不良債権縮小が進んでいることも確認し、ESMを銀行救済に活用する制度の導入が最終承認された。同制度を当初予定していた24年より2年前倒しの22年から導入することでも合意した。条約改定はユーロ圏各国が1月に署名し、各国の議会が21年に批准する見通しだ。
一方、財務相会合はユーロ圏の金融システムで進んでいたリスク軽減が、コロナ禍に伴ってスローダウンするのは避けられないとして、金融の安定維持に向けた監視を強化していくことを確認した。