欧州委が運輸部門の脱炭素化戦略を発表、30年までに排ガスゼロ車3千万台普及

欧州委員会は9日、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出量を「実質ゼロ」にする目標の実現に向け、運輸部門の脱炭素化を進めるための「持続可能なスマートモビリティ戦略」を発表した。運輸部門からの排出量は全体の25%を占めており、気候中立の実現には同部門で化石燃料への依存を大幅に減らす必要がある。欧州委は自動車、鉄道、航空、海運の各分野で野心的な目標を掲げ、50年までに90%の排出削減を目指すと表明した。

欧州委によると、EUではエネルギーや産業部門などほとんどの分野で温室効果ガス排出量が1990年と比べて大幅に減っているが、運輸部門では逆に増えており、全体に占める割合は90年の15%から18年は25%に拡大した。特に運輸部門における排出量の7割以上を占める自動車からの排出削減が、気候中立の実現に向けて重要な鍵を握っている。

欧州委はまず、30年までに電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など温室効果ガス排出ゼロの乗用車を少なくとも3,000万台普及させる目標を打ち出した。それに合わせて同年までに1,000カ所の水素ステーションと、300万カ所の充電スタンドを設置し、50年までにトラックやバスなど大型車両を含むほぼ全ての車で排出ゼロを目指す。また、21年6月までに25年以降を対象とする新たな自動車排出ガス規制をまとめる。

一方、鉄道輸送では高速鉄道の旅客輸送量を30年までに欧州全体で現在の2倍、50年までに3倍に増やし、鉄道貨物輸送も50年までに2倍にする。さらに脱炭素化が困難な航空と海運分野でも技術開発を加速させ、30年までに排出ゼロの船舶、35年までに同じく排出ゼロの大型航空機を商用化する。

このほかスマートモビリティ戦略には30年までに自動運転技術を大規模に展開することや、電子チケットによる複数の交通機関の一元管理、貨物輸送のペーパーレス化などの目標が盛り込まれている。

欧州委のティーマーマンス第一副委員長(欧州グリーンディール政策総括、気候変動対策担当)は「50年までの気候中立を実現するには運輸部門からの排出削減が不可欠だ。持続可能なスマートモビリティ戦略は欧州内での人とモノの移動方法を変え、さまざまな輸送手段を簡単に組み合わせられるようにする。コロナ禍で傷ついた欧州経済を立て直し、経済と社会をより持続可能な軌道に乗せるため、輸送システム全体に野心的な目標を設定した」と述べた。

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