EUの欧州委員会は15日、英政府が北アイルランドに本土から入る食品などの通関・検疫規制の猶予期間を6カ月延長したことについて、離脱協定に違反するとして法的手続きに着手したと発表した。送付した警告書に対する英政府の対応次第で、欧州司法裁判所に提訴することになる。
英政府は3日、EU離脱に伴って北アイルランドで物流が混乱している問題に対応するため、北アイルランドのスーパーなどに英本土から入る食品などの複雑な通関・検疫手続きを免除する「猶予期間」を3月末から10月1日まで延長すると発表。これに対してEU側は、一方的な決定で離脱協定に反するとして、法的措置も辞さない構えを示していた。
欧州委は英政府に対して、警告文を送付。1カ月以内に回答するよう求めている。回答がないか、回答に盛り込まれた対応が不十分と判断した場合は、再度警告した上で、欧州裁に提訴する。英製品への関税引き上げなど制裁発動を視野に入れている。
英政府の報道官は、重要な国際協定を締結した当初の時期に、「このようなささやかな運営上の措置を講じるのは前例があり、普通のことだ」と述べ、協定違反を否定している。
一方、欧州委は英国との関係悪化を防ぐため、同問題を本格的な法的闘争に発展する前に話し合いで解決したい考えで、シェフチョビチ副委員長は英国で対EU問題を担当するフロスト国務相に書簡を送り、解決策をめぐる月内の合意を目指し、協議を進めることを呼びかけた。
EUと英国が締結した離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて「北アイルランド議定書」が盛り込まれ、英国が離脱してからも北アイルランドと地続きで国境を接するEU加盟国アイルランドの間に物理的な国境は設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。
これによって北アイルランドは事実上、EU単一市場と関税同盟に残るため、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらず通関・検疫が必要となり、北アイルランドは英本土からの食品の輸送に混乱が生じるという問題に直面。これに対応するため、英政府は猶予期間の延長に踏み切った。