独与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と野党・緑の党が20日までに、9月の連邦議会(下院)選挙に向けて首相候補を決定した。これで選挙戦の顔が出そろい、メルケル首相の後継争いが5カ月にわたって繰り広げられる。
CDU/CSUでは首相候補の選定が難航した。両党の党首がともに名乗りを上げていたためだが、ジュニアパートナーであるCSUのマルクス・ゼーダー党首(バイエルン州首相)が20日の記者会見で、CDUのアーミン・ラシェット党首(ノルトライン・ヴェストファーレン州首相)を両党の首相候補にすることを支持すると発表したことで決着がついた。
CDUのラシェット党首は当初からCDU/CSUの首相候補となる意向を表明していた。これに対してCSUのゼーダー党首は、首相候補の座を狙っていたにもかかわらず、意思表示を意図的に避けてきた。全国政党で勢力の大きいCDU の同意なしに首相候補となることはできないためだ。
ゼーダー氏は世論調査でラシェット氏を大きく上回る人気を保っていることから、これを武器にCDUに揺さぶりをかけ、CDUの支持をラシェット氏からじわじわと奪い取っていく戦略を取ってきた。
CDU/CSUの支持率がコロナ規制の混迷やワクチン接種の遅れを背景に低下すると、両党内では首相候補を速やかに選定すべきだとの声が高まった。ゼーダー氏はこれを受け11日にようやく名乗りを上げ、支持率の高い者が首相候補になるべきだと強調。CDUの地方支部や一部の州の首相から支持を取り付けた。
ただ、CDUとCSUが対立して泥仕合に陥ることは両党にとって好ましくないため、CDUがラシェット氏を首相候補に選出すればこれを尊重して受け入れるとの立場を繰り返し表明。ラシェット氏がこれを踏まえ19日にCDUの党役員会を開き、正式に支持を取り付けたことから、身を引いた。
ゼーダー氏は記者会見で、地元バイエルンだけでなく全国の至る所から支持を受けていたと悔しさをにじませながらも「分裂は望まない」として、今後は「恨むことなくラシェット氏を全力で支えていく」と述べた。17年に行われた前回選挙の前には難民問題をめぐってCSUがメルケル首相(当時はCDU党首)を激しく攻撃し、両党の関係が悪化した経緯がある。そうした事態は回避したい考えだ。
中道左派の野党、緑の党は19日、女性のアンナレーナ・ベアボック共同党首を首相候補とする方針を発表した。同党が首相候補を擁立するのは初めて。ロベルト・ハーベック共同党首とベアボック氏の話し合いで決まった。6月の党大会で正式決定する予定だ。
緑の党は1980年の設立で、とくに環境保護と人権を重視している。連邦議会には83年に初進出した。選挙での得票率は09年の10.7 %が最高で、17年9月の前回選挙は8.9%にとどまった。
緑の党の首相誕生も
首相候補を擁立する政党は戦後、2大政党のCDU/CSUとSPDに限られていた。今回は緑の党を含む3党(CDUとCSUは別の政党であるため正確には3会派)が首相の座を争うことになる。SPDは早い時点でオーラフ・ショルツ財務相(副首相)を首相候補に選出していた。
公共放送ZDFの委託で世論調査機関ヴァーレンが今月上旬に実施した有権者アンケート調査では、ゼーダー氏に「首相を務める能力がある」とする回答が63%に達し、他の4人を大きく上回った。ラシェット氏は同29%にとどまる。ショルツ氏は37%、ハーベック氏は29%、ベアボック氏は24%。ショルツ氏は2位に付けているものの、SPDの支持率が13%と極めて低いことから首相になる可能性は実質的にない。首相の座をめぐる争いは皮肉にも有権者の人気が最も低いベアボック氏とラシェット氏の一騎打ちとなる見込み。現在の政党支持率から判断するとラシェット氏が勝つ可能性が高い。