欧州議会は4月28日に開いた本会議で、新型コロナウイルスワクチンの接種を受けた人などにEU共通の証明書を発行し、域内を自由に移動できるようにする制度を導入する案を承認した。ただ、制度の詳細について欧州委員会や加盟国との間に相違があり、今後の協議で詰める必要がある。
同制度はコロナ禍で大きな打撃を受けている域内観光業の復興が目的。「デジタル・グリーン証明書」と呼ばれる共通証明書を新型コロナワクチン接種者とPCR検査で陰性の人、コロナに感染して回復した人に発行するというもので、域内各国は入国時に同証明書を提示した旅行者を受け入れる義務を負う。
欧州委が3月中旬に関連法案を発表し、加盟国は同月25日の首脳会議で原則合意していた。欧州議会は同制度導入に関する今後の交渉方針を賛成多数で承認し、同制度導入そのものについては同意した。
欧州委案と議会側で大きく異なるのは、証明書保持者に無制限での越境を認めるかどうか。欧州委案では加盟国間でコロナ関連規制にばらつきがあることから、証明書保持者にも入国時にPCR検査を受け、一定期間隔離するかどうかを各国の判断に委ねることになっている。これに対して欧州議会は、そのような制限を設けると「共通制度」の意味がないとして、無制限での入国を認めるべきとしている。
このほか、同制度を世界保健機関(WHO)がコロナ禍終息を宣言するまで運用するという欧州委案に対して、運用期間を1年に限定することを主張。未接種者への旅行差別となるのを防ぐため、各国がワクチン接種、PCR検査を無料で簡単に受けることができるようにすることを条件に加えた。証明書の名称に関しても、国際的な通称となっている「ワクチンパスポート」と混同されるのを避けるため、「EU COVID-19(新型コロナウイルス感染症 )証明書」とするよう求めている。
一方、証明書の対象となるワクチンに関しては、EUの欧州医薬品庁(EMA)が承認したワクチンだけでなく、加盟国が独自に承認したロシア製ワクチンなども含め、それらを接種した人の入国を受け入れるかどうかは各国が決める点については欧州委と一致した。
EUは夏の観光シーズンが始まる6月をめどに同制度の運用を開始したい考えだが、詳細は欧州委と加盟国、欧州議会による協議での合意が必要だ。今後の協議で妥協点を見出せるかどうかが焦点となる。