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2021/9/13

EU情報

ECBが資産購入のペース縮小決定、金融政策正常化へ舵切り

この記事の要約

欧州中央銀行(ECB)は9日に開いた定例政策理事会で、コロナ禍対応として実施している「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」に基づき国債、社債などの資産を買い入れる措置について、購入ペースを縮小することを決めた。ユ […]

欧州中央銀行(ECB)は9日に開いた定例政策理事会で、コロナ禍対応として実施している「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」に基づき国債、社債などの資産を買い入れる措置について、購入ペースを縮小することを決めた。ユーロ圏で景気回復が進んでいるためで、金融政策の正常化に舵を切った格好となる。

PEPP はコロナ禍対応の金融緩和の柱となっているもの。ECBが新型コロナウイルスの感染拡大で揺れるユーロ圏経済を下支えするため、2020年3月に導入した。当初の資産購入枠は7,500億ユーロだったが、1兆8,500億ユーロまで拡大された。22年3月末まで実施されることになっている。

これまでECBは、向こう3カ月は資産購入を従来より「かなり速いペース」で進めるという姿勢を維持してきた。今回の理事会では、前の2四半期より「緩やかなペース」にするという方針に転換した。

ユーロ圏では景気回復が米国、中国などと比べて遅れていたが、新型コロナウイルスワクチンの接種率が高まり、経済・社会活動の正常化が進んでいることで復調に転じている。4~6月期の域内総生産(GDP)は前期比2.2%増で、3四半期ぶりのプラス成長となった。物価も急速に持ち直している。ECBは同日発表した最新の内部経済予測で、21年の成長率を5.0%、インフレ率を2.2%とし、それぞれ前回(6月)の4.6%、1.9%から上方修正した。

こうした状況を踏まえて、ECBは資産購入のペースを緩めても良好な金融環境を維持できるとして、縮小を決めた。過去2四半期の毎月の購入額は800億ユーロ程度だったが、消息筋がロイター通信などに明らかにしたところによると、今後は600~700億ユーロに減らす見込みだ。

ただ、ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、デルタ株による感染の拡大、サプライチェーンの混乱による半導体不足といった先行き不安があることを強調。米、英などの中銀は量的金融緩和を段階的に縮小して正常化する「テーパリング」に踏み切る方針を打ち出しているが、今回の決定はテーパリングではなく、「調整だ」と述べた。コロナ禍前から実施している資産購入プログラム(APP)も継続し、これまで通り毎月200億ユーロ規模の資産を購入することも確認した。

資産購入ペースの縮小は金融政策正常化に向けた「出口戦略」の第1歩で、12月の理事会でPEPPを予定通り3月末で打ち切るかどうかを決める見通しだ。それでもラガルド総裁がテーパリングではないと予防線を張ったのは、なお景気の先行きが不透明なほか、現在はECBの新目標である2.0%を上回っているユーロ圏のインフレ率が、原油高など一時的な要因の影響がなくなれば縮小に転じ、中期的には目標を割り込むとみているためだ。ECBは正常化を慎重に進める方針で、声明ではAPPを必要な限り継続し、主要政策金利引き上げの直前まで打ち切らない方針を示した。