EUは10~11日にスロベニアのブルドで財務相理事会を開き、財政ルールの見直しについて協議した。新型コロナウイルス感染拡大による経済危機に対応するため、2022年末までEU加盟国の財政赤字を厳しく制限する財政規律の適用を一時的に停止する措置が採られているが、23年の適用再開にあたり、ルールを簡素化して柔軟に運用できるようにし、景気動向に左右されずに有望分野に予算を投じられるようにする必要があるとの認識で一致した。今後の協議では、改革案の柱として提案されている環境分野への投資を赤字や債務に勘定しない案や、公的債務残高の削減ルールなどが焦点になる。
欧州委員会のドムブロフスキス上級副委員長は会議後の記者会見で、パンデミック後の経済再生に向けた投資を促し、一部の加盟国が抱える巨額の公的債務を削減するためのより現実的な道筋を示す必要があると指摘。「財政の持続可能性と経済回復を支援する必要性のバランスをとる必要がある」と強調した。
EUの財政規律を定めた安定成長協定は、各国に毎年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以下、債務残高を同60%以内に抑えるよう定めている。違反した場合は是正を求め、制裁を科すこともある。ただ、例外的な状況では「一般免責条項」を適用し、赤字が上限を超えることを認めている。欧州委は20年3月、コロナ禍が各国の経済、社会に大きな影響を与えている事態が同条項に該当すると判断。各国が苦境にある企業への支援などを柔軟に行えるようにするため、財政規律の適用停止を決定。当初は21年末まで凍結されることが決まっていたが、コロナ禍が長引く中で22年末まで同措置が延長されることになった。
現行ルールでは、GDP比60%を超える債務残高について、年間20分の1ずつ削減することを加盟国に義務付けているが、コロナ危機での感染防止策や苦境に立つ企業への支援策などで各国とも財政が極度に悪化しており、多くの加盟国が過酷な債務削減を課されることになる。このため財務相理では、経済成長を脅かさない形で債務の削減を可能にする、より現実的なルールが必要との認識で一致した。
一方、環境分野への投資を財政ルールの適用外とする案は、50年にEU域内の温室効果ガス排出量を実質セロにすることなどを柱とする「欧州グリーンディール」の実現につなげる狙いがある。同案はフランスのルメール経済・財務相などが強く支持しており、ドムブロフスキス氏も環境投資を赤字や債務への参入基準から除外する「ゴールデンルール」について検討すべきだとの考えを示した。
ただ、財政規律を重視する一部の加盟国はルールの変更に慎重な姿勢を示している。オランダ、フィンランド、スウェーデン、スロバキア、チェコ、オーストリア、デンマーク、ラトビアの財務相は「安定成長協定を含む経済・財政ガバナンスの改善に向けた議論には前向きに臨むが、ルールに基づく財政フレームワークを堅持しながら改善を図るべきだ」との共同文書を発表した。