欧州委が保険会社規制の見直し発表、資本要件緩和で投資促進

欧州委員会は22日、EUの保険分野に対する規制の枠組みである「ソルベンシーⅡ」を見直すと発表した。資本要件の緩和を柱とする内容だ。保険会社による投資の余力を拡大し、コロナ禍で大きな打撃を受けた域内経済の回復を後押しする狙いがある。

2016年に施行されたソルベンシーⅡは、銀行の自己資本比率の最低基準を定めた新BIS規制に相当する保険分野の新ルール。保険会社(再保険会社を含む)に対して、不測の事態で生じる損失、予期される損失をカバーできるだけの自己資本を確保し、いかなる場合も保険契約者への責任を果たせるようにするのが主眼だ。

欧州委の見直し案は、保険会社が長期的に投資する場合に、自己資本規制上で優遇的に扱うことや、一時的な市況の悪化で損失が出た場合に関するルールの緩和などが要点。ソルベンシーⅡが適用される保険会社を決める際の判断基準も見直し、現在より多くの小規模事業者が規制から外れるようにする。これによって対象企業は法令順守のコストが大きく軽減され、財務に余力が生じる。

欧州委は保険会社が自己資本に回す資金を支払い余力のリスクが増大しない範囲内で適度に減らし、株式市場などでの資産運用を拡大することで、EU経済の回復に弾みをつけたいという思惑で、規制緩和に踏み切る。加盟国と欧州議会の承認を経て実施する。域内保険業界で短期的に900億ユーロ、長期的には追加で300億ユーロの資金が浮き、投資に回ると推定している。

とくに、2050年にEU域内の温室効果ガス排出量を実質セロにすることなどを柱とする「欧州グリーンディール」に寄与するプロジェクトへの投資に期待する。

ただ、保険業界の専門家の間では、余剰資金が投資ではなく、株主に還元される可能性もあるとして、効果を疑問視する声も出ている。

一方、欧州委は、保険会社が危機に陥った際の救済、破綻処理の手続きを一元化する新ルール「保険再生・破綻処理指令(IRRD)」の導入も提案した。16年に発効した銀行を対象とする同様のルール「銀行再生・破綻処理指令(BRRD)」の保険会社版となるもので、公的資金を注入して救済する前に株主、債権者に負担を迫る「ベイルイン」制度の導入などが柱となっている。