欧州委員会は22日、天然ガス価格の高騰が域内の経済や家計に深刻な影響を与えている現状を受けて、EU加盟国がエネルギー市場のルールに抵触することなく急激な価格上昇に対処するための手引きとなる「ツールボックス」を策定する方針を表明した。数週間以内に加盟国が取り得る選択肢をまとめ、各国がより協調して対応できる体制を整える。
ガス価格は欧州市場で年初と比べて4倍以上の水準で推移している。天然ガス相場の高騰は、新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴い、世界的に需要が拡大していることが背景にある。気候変動対策で各国が脱炭素政策を進めていることや、再生可能エネルギーの不安定さも天然ガスの需要を押し上げ、価格上昇を招いている。ガス価格の高騰で電力卸価格も上昇しており、スペインなどでは家庭向け電力料金が急激に値上がりしている。
欧州委員会のシムソン委員(エネルギー担当)はブリュッセルで開かれたEUエネルギー担当相との会議後、加盟国がガス価格の高騰に迅速に対処するための「より構造化されたツールボックス」の策定を提案したと発言。これは各国がEUルールの範囲内で最良の対応策を導き出すのに役立つと強調し、具体策として付加価値税(VAT)や物品税の調整や、消費者を急激な価格上昇から守るための料金規制や補助制度などを挙げた。
スペイン、イタリア、ギリシャなどではエネルギー価格の高騰に対処するため、補助金や電力・ガス料金に上限を設ける規制の導入などが検討されている。スペインは価格高騰に対してEUが連携して対応する必要があると主張し、欧州委に対して加盟国が取り得る選択肢を提示するよう求めていた。
こうしたなか英国で22日、天然ガス価格の高騰を受け、新たにエネルギー小売り2社が経営破綻した。仕入れ価格の上昇が経営を圧迫しており、同国では9月に入り事業停止に追い込まれた供給会社がこれで6社となった。こうしたケースは今後さらに増えるとみられ、暖房需要が高まる冬に向けてガス供給が不足する事態も懸念される。
新たに経営破綻したのは、ともにガスと電力を販売するアブロエナジーとグリーンサプライヤー。ガス電力市場監督局(Ofgem)によると、両社の契約者数はそれぞれ58万件と25万5,000件で、英国のエネルギー小売市場で計3%のシェアを持つ。
英国ではエネルギー価格の急激な値上がりから消費者を守るため、料金に上限を設けるプライスキャップ制度が導入されている。このため事業者は燃料の調達価格が高騰しても販売価格に転嫁することが難しく、経営が圧迫されて事業停止に追い込まれるケースが急増している。ただ、供給業者が経営破綻した場合、Ofgemの監督下で他者が事業を引き継ぐ仕組みになっており、顧客への供給は維持される。
一方、天然ガス価格高騰の影響がドイツにも波及してきた。製造業者や都市エネルギー公社にガスを供給しているドイチェ・エネルギープール(DEP)は24日、国内での供給を全面的に停止すると発表した。調達価格の高騰を受けてガス供給を打ち切るのは、ドイツではDEPが初めて。顧客にはエネルギー大手のエーオンが代替供給する。