「オーカス」潜水艦問題がEUに波紋、防衛面での自立目指す動き本格化

米英豪3カ国によるインド太平洋地域での新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設に伴い、オーストラリアがフランスとの潜水艦共同開発計画を破棄したことを巡り、EU内で波紋が広がっている。マクロン仏大統領は22日、バイデン米大統領と電話会談を行い、オーカス問題で悪化した両国の関係修復に乗り出した。召喚していた駐米大使を近く帰任させ、米政府との対話を始める方針だが、EUが「インド太平洋協力戦略」を発表したタイミングで「フランス外し」が行われた衝撃は大きく、EU側は防衛・安全保障分野で自立性を高める必要性を再認識しているようだ。

米国と英国、豪州は15日、オーカスの創設を発表し、原子力潜水艦の配備に向けて協力する方針を明らかにした。これに伴い、豪州が2016年に合意した潜水艦の共同開発計画を破棄したことを受け、仏政府は17日、中米、駐豪両大使を召喚すると表明。ルドリアン仏外相は「同盟国による裏切りだ。信頼関係に傷がついた」などと述べ、3カ国の対応を批判した。

EUも新たな枠組みについて知らされておらず、16日にインド太平洋協力戦略を発表したボレル外交安全保障上級代表(外相)は同日、蚊帳の外に置かれたことに遺憾の意を表明した。EUは20日、国連総会に合わせて米ニューヨークで非公式の外相会合を開き、この問題について協議。ボレル氏はEUとしてフランスとの連帯を表明し、フォンデアライエン欧州委員会は「加盟国の1つが許されない扱いを受けた」と米豪の対応を批判した。

EUではアフガニスタンをめぐる混乱をきっかけに、駐留米軍の撤収を強行した米国への不満や、軍事面で米国に依存する現状への懸念が広がっている。フォンデアライエン氏は15日行った施政方針演説で、EUが防衛面で自立性を高め、独自の判断で迅速に対応できる体制を整える必要があると強調。加盟国に対し、防衛力強化に向けた「政治的意思」の結集を呼びかけた。また、マクロン氏はかねて欧州の「戦略的自立」を唱え、欧州各国による「欧州軍」の創設を訴えてきた。今回の出来事をきっかけに、EU首脳から防衛・安全保障分野で「自ら主導権を握らなければならない」(ボレル氏)といった意見がくり返し表明されており、「欧州防衛連合」の実現に向けた動きが活発化する可能性がある。

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