欧州委員会は15日、EU域内の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標の実現に向けた気候変動とエネルギー関連の対策案を発表した。化石燃料の利用を減らしてクリーンエネルギーを拡大するための具体策として、2049年までに天然ガスの長期供給契約を原則として禁止する方針を打ち出した。このほか水素市場の整備に向けたルールや、建造物の脱炭素化に関するルールなどが盛り込まれている。早期導入に向け、欧州議会と閣僚理事会で今後議論する。
今回の政策パッケージは、欧州委が「欧州グリーンディール」の推進に向けて7月に発表した、ガソリン車の新車販売を35年までに禁止することなどを柱とする政策案に続く第2弾。温室効果ガスを30年までに1990年比で55%削減するとの中間目標の達成に主眼を置いた内容となっている。
欧州委の提案で最大の柱は、域内ガス市場の脱炭素化に向けた政策案。天然ガスは石炭や石油と比べると二酸化炭素(CO2)排出量が少ないものの、EUではエネルギー消費の約4分の1を天然ガスが占めており、50年の気候中立の実現に向けて、再生可能エネルギーから生産される水素などへの移行が重要な課題となっている。欧州委は天然ガスの利用を段階的に廃止するための具体策として、49年以降に続く長期供給契約の締結を原則として禁止することを提案した。
欧州委は天然ガスに代わるエネルギー源として水素を特に重視している。今回の政策パッケージには、水素市場の確立に向けた供給ネットワークの運営や資金調達、天然ガスとの混合、国境を越える供給に関するルールなどを盛り込んだ。
さらにエネルギー価格高騰への対応策として、緊急時に備えて加盟国がガスを共同で備蓄したり、調達できる仕組みを整えることも提案した。
一方、建造物の脱炭素化に向け、欧州委は建物のエネルギー性能指令の改正案を発表した。公共施設や商業ビルは27年、住宅は30年までに新築建物の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを義務づける。また、現在は国ごとに異なるエネルギー性能証明の制度や運用を見直し、EU全体で建物のエネルギー効率を改善する。具体的には25年までにエネルギー性能証明の土台となる評価基準をA(最高評価)からG(最低評価)の7段階に統一し、加盟国に対して公共施設や商業ビルは27年、住宅は30年までに全ての建物でF評価以上の取得を義務づける。
EU首脳会議、エネルギー政策で合意できず
EUは16日の首脳会議で、二酸化炭素(CO2)排出権価格の高騰への対応や、グリーン投資規制などについて協議したが、加盟国の意見が分かれて合意できなかった。
排出権取引市場に関しては、ポーランドやスペインなどが投機的な取引を規制して排出権価格を安定させるべきだと主張したのに対し、ドイツなどがこれに反対。天然ガスや原子力を「環境に配慮した投資」とみなすかどうかについても議論は平行線をたどった。一部の加盟国は欧州委に対し、EUタクソノミー(気候変動など環境問題の解決に貢献する持続可能な経済活動を6つの目的に分類した、EU独自の基準)における原子力の扱いについて、今月中に基本ルールをまとめるよう求めている。