欧州委員会は14日、シェンゲン圏内の国境管理に関する規則の改正を提案した。新型コロナウイルス感染拡大により、シェンゲン協定締結国がそれぞれ国境管理を再導入したことで物流などが混乱した教訓を踏まえ、公衆衛生上の危機などに際してEU加盟国が協調して対応できるよう、域内での国境を越える移動や域外からの入域を制限する場合のルールを明確化する。
シェンゲン協定に基づき、EU加盟国のうち22カ国と欧州自由貿易連合(EFTA)加盟4カ国(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)の間では出入国審査が廃止され、領域内での自由な移動が保障されている。しかし、コロナ禍で各国が異なる国境管理体制を敷き、人と物の移動が制限されてサプライチェーンにも深刻な影響が及んだ。
欧州委はこうした教訓を踏まえ、シェンゲン圏内での国境を越える移動について、国境管理の再導入は「最終手段」であり、まず国内でのチェック体制を強化する必要があると指摘。そのうえで◇加盟国は不測の事態に際し、30日を期限として独自に国境管理を再導入し、最大3カ月まで延長できるようにする◇予見可能な状況では、6カ月を期限として国境管理を再導入し、最大2年まで延長可能とする◇状況に応じて導入期間をさらに延長できるようにする――ことを提案。ただし、必要以上の制限措置が講じられないようにするため、国境管理が6カ月を超える場合は当該国に影響評価の実施を求めるほか、国境管理が18カ月以上に及ぶ場合、欧州委が同措置の必要性や妥当性について意見を出すことも新ルールに盛り込んだ。
一方、域外との国境管理に関しては、パンデミックの教訓を生かして強力な「調整メカニズム」を確保し、公衆衛生上の脅威などに際しEU全体で拘束力のある措置を講じることができるようにする。例えば域外で新たな感染症が確認され、EUに深刻な影響が及ぶ恐れがある場合、閣僚理事会は域外からシェンゲン圏への入域を制限する規則を迅速に採択できるようになる。
規則案は今後、欧州議会と閣僚理事会で審議される。欧州委のスキナス副委員長(欧州生活様式推進担当)は声明で「2015年の難民危機、欧州各地での相次ぐテロ攻撃、そして今回のパンデミックにより、シェンゲン圏は緊張状態に追い込まれている。われわれはシェンゲンのガバナンスを強化し、危機的状況に際して加盟国が迅速かつ協調的に適切な対応をとれるような体制を整える責任がある」と強調した。