欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/1/10

EU情報

多国籍企業の最低法人税率適用指令案を発表、追加税やカーブアウト制度導入へ

この記事の要約

欧州委員会は12月22日、EU域内で活動する多国籍企業に対し、世界共通の最低法人税率を適用するための指令案を発表した。経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心とする136カ国・地域が2021年10月に合意した新たな国際課 […]

欧州委員会は12月22日、EU域内で活動する多国籍企業に対し、世界共通の最低法人税率を適用するための指令案を発表した。経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心とする136カ国・地域が2021年10月に合意した新たな国際課税ルールに沿って、多国籍企業に適用する法人税の最低税率を15%に設定し、事業展開する国・地域で実効税率が15%を下回る場合、域内のグループ企業に「追加税(top-up tax)」を課すことなどを柱とする内容。指令案は閣僚理事会で審議し、全会一致で採択する必要がある。国際課税ルールの導入に合わせて23年1月の適用開始を目指す。

昨年10月の国際合意は、IT企業を含む巨大多国籍企業に対する課税権の配分を扱う第1の柱と、多国籍企業の利益に対する最低実効税率を世界共通で15%に設定する第2の柱から成る。今回の指令案は、第2の柱を実施し、全ての多国籍企業グループに対して最低限の法人税負担を確保するための「グローバル税源浸食防止(GloBE)規則」を域内で適用するのに必要なルールを定めたもの。GloBE規則を国内法に組み込むためのOECDのモデル規則に沿った内容となっているが、モデル規則では売上高が7億5,000万ユーロを超える多国籍企業グループが規制の対象となっているのに対し、指令案では域内の1カ国のみで事業展開する売上高が7億5,000万ユーロを超える企業も対象に含まれる。

指令案によると、GloBE規則に沿って「所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)」を導入し、多国籍企業グループが活動する国・地域で法人税の実効税率が15%を下回る場合、EU域内の親会社に追加税を課すことができるようにする。また、実効税率が15%を下回る域外の国・地域にグループの親会社がある場合は、GloBE規則の「軽課税支払ルール(UTPR:Undertaxed Payment Rule」に基づいて、域内の子会社に追加税を課すことができるようにする。

一方、実体のある経済活動を行っている多国籍企業の負担を軽減するための措置として、課税標準から一定額の控除を認める「カーブアウト」制度を導入する。これにより、企業は有形資産(建物など物理的な資産)の価値の5%、および給与の5%に相当する所得を課税対象から除外することができる。

ドムブロフスキス上級副委員長(人々のための経済 および通商担当)は声明で「OECD加盟国などによる広範な合意に迅速に対応することで、欧州はより公平な法人税制の確立に向けて役割を十分に果たすことができる。多国籍企業に対する法人税の最低税率設定に関する国際的な合意をEUルールに反映させることで、不健全な法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけ、大企業による税逃れを防止する取り組みが大きく前進する」と強調した。