北アの通商ルール巡る協議、英が初めてEUに譲歩

EUと英国は11日、英のEU離脱後に英領北アイルランドに導入された通商ルールの見直しを巡る協議を行った。英フィナンシャル・タイムズによると、英国は本土から入る物品の通関規制で譲歩し、北アイルランドだけで販売されるものであっても書類手続きの対象となることを受け入れる意向を表明した。同協議の主要問題で英国側が歩み寄るのは初めてだ。

EUと英国の離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて「北アイルランド議定書」が盛り込まれ、北アイルランドはEU単一市場と関税同盟に残ることになった。これによって北アイルランドは英国領でありながらEUの通商ルールが適用される「特区」となり、英本土から北アイルランドに流入する食品など物品は国内の移動であるにもかかわらずEUの厳しい食品・衛生基準が適用され、通関・検疫が必要となる。

英政府は同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを2021年7月に要求。EUと協議を続けているが、これまで大きな進展はない。

EUの欧州委員会は10月、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを大幅に緩和するという譲歩案を提示した。北アイルランド経由でアイルランドなどEU加盟国に輸出されず、北アイルランド内で消費される物品に関しては、通関規制を緩和し、商品の価格、取引する事業者に関する情報など基本的な情報を提示すれば済むようにし、必要な書類手続きを50%削減するという内容だ。

これまで英政府は、緩和だけでは不十分として、こうした物品の通関手続きを完全に不要とすることを求めていた。しかし、消息筋がフィナンシャル・タイムズに明らかにしたところによると、欧州委のシェフチョビチ副委員長と英国のトラス外相が11日に行った協議では英国側が歩み寄り、EUの通関手続き緩和案を基本的に受け入れる方針を打ち出した。通関時に提示する情報をさらに削減する方向で調整を進めたい考えだ。

同方針は口頭で伝えられ、文書化されていない。協議終了後に発表された共同声明は「話し合いの進展が必要とする点で合意し、近日中に集中協議を行う」と述べるにとどまった。それでも、英政府の高官は協議が「建設的な雰囲気」で行われたとしており、難航が続く協議が進展しそうなムードとなってきた。

ここにきて英政府が妥協に転じたのは、北アイルランドで5月5日に実施される議会選までに決着しないと、選挙戦で同問題が最大の焦点となり、英国との一体性を重視するプロテスタント系のユニオニスト派とアイルランド再統一を主張するカトリック系のナショナリスト派との対立が激化しかねないという懸念があるもよう。ウクライナ情勢を巡って米欧とロシアが対立する中、EUとの連帯をアピールする狙いもあると目される。

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