欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/2/21

EU情報

EU独自の衛星通信網構築へ、事業費60億ユーロで23年にも始動

この記事の要約

欧州委員会は15日、人工衛星を利用したEU独自の通信網の構築に関する規則案を発表した。米国や中国、ロシアを中心に宇宙産業の分野で競争が激化する中、域外のシステムに依存しない、安全で信頼性の高い衛星通信網の構築を目指す。E […]

欧州委員会は15日、人工衛星を利用したEU独自の通信網の構築に関する規則案を発表した。米国や中国、ロシアを中心に宇宙産業の分野で競争が激化する中、域外のシステムに依存しない、安全で信頼性の高い衛星通信網の構築を目指す。

EUは現在、低軌道上の衛星を利用して、欧州独自の測位システム「ガリレオ」と地球観測システム「コペルニクス」を運用している。しかし、衛星を利用した通信システムの整備は進んでいないのが実情。危機管理や国境監視、重要インフラの保護など安全保障の観点から、低軌道上に新たな人工衛星システムを構築し、EU独自の通信網の整備を急ぐ。

欧州委の試算によると、衛星通信網の整備に必要な総事業費は約60億ユーロ(約7,900億円)。2027年までのEU予算から24億ユーロを拠出し、残りを加盟国や欧州宇宙機関(ESA)からの拠出や、民間からの投資で賄う計画だ。同プロジェクトを通じて宇宙産業におけるEUの競争力が強化され、新たなインフラの構築により170~240億ユーロの粗付加価値(GVA)と雇用創出が見込まれる。

欧州委は衛星通信網を民間にも開放することで、EU全域で高速インターネット接続の提供が可能になり、30年までのデジタル移行の実現に向けた「デジタル化の10年間」の主要目標を達成することができると説明している。また、EU域外へのインフラ投資戦略「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、アフリカや北極圏など戦略的に重要な地域にも衛星通信網へのアクセスを提供する。

規則案は欧州議会と閣僚理事会で協議される。双方で承認されれば、23年にも事業に着手し、25年までに初期段階の通信サービス提供を開始。同時に軌道上で量子通信技術の試験運用を実施し、28年までに全てのサービスを提供する。

一方、欧州委は同日、安全で持続可能な宇宙利用のための宇宙交通管理(STM)に関する通達を発表した。新たな衛星の打ち上げに伴い、宇宙空間の混雑や、衛星やロケットの残骸といった宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加が予想されるため、宇宙船や宇宙ゴミの識別・追跡システムを強化して、衛星同士や宇宙ゴミと衛星の衝突が発生しないようにする。また、衛星の運用に関する法的枠組みを整備するとともに、STMに関する国際的なパートナーシップを構築し、多国間で安全・確実な宇宙利用を促進する。