最低賃金の適正化図る指令案、加盟国と欧州議会が暫定合意

EU加盟国と欧州議会は7日、EU全体で最低賃金の適正化を図るための指令案の内容で暫定合意に達した。加盟国が域内共通のルールに沿って最低賃金の設定枠組みを整備し、低所得層の所得向上につなげるのが狙い。閣僚理事会と欧州議会の正式な承認を経て新指令が施行され、加盟国はその後2年以内に国内法を整備する必要がある。

指令案は欧州委員会が2020年10月に発表した。域内の労働者が法定最低賃金や労働協約による保護を受けやすくし、生活維持に必要な適正レベルの最低賃金を確保するのが新指令の目的で、EU共通の最低賃金を設定するものではない。また、労働協約により最低賃金を決定している加盟国に対し、法定最低賃金の設定を義務付けることもしない。

指令案は法定最低賃金を設定している加盟国に対し、労働者が人間らしい生活を維持するのに十分な水準に達しているかの評価を義務付ける。最低賃金は明確な基準に沿って設定または更新しなければならず、少なくとも◇最低賃金に基づく購買力◇一般的な賃金水準とその分布◇賃金上昇率◇労働生産性の動向――という4つの要素が含まれなければならない。

一方、労働協約により最低賃金を設定している加盟国では、労使交渉で適切な水準と適用範囲が決定されるため、正確な情報に基づく建設的な労使交渉を促す必要がある。労働協約で保護される労働者が80%を下回る加盟国は、適用率を引き上げるための行動計画を策定し、明確な工程表と具体的措置を提示することが義務付けられる。

また、労働者が最低賃金による保護を受けやすくするため、加盟国は査察官を置くなど監視体制を強化し、下請け搾取やサービス残業などを取り締まる必要がある。

EUでは現在、21カ国が法定最低賃金を定めているが、月額400ユーロ未満のブルガリアやルーマニアから2,000ユーロを超えるルクセンブルクやオランダなど、国によってばらつきが大きい。一方、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア、キプロスの6カ国は労働協約による賃金設定を行っている。

欧州委は声明で「労働者が十分な賃金を確保することが生活水準の向上と労働条件の改善につながり、公正で強靭な経済・社会を実現するうえで不可欠だ」と指摘。シュミット委員(雇用・社会権担当)は「域内の多くの世帯が生計の維持に苦慮する中、加盟国が妥当な最低賃金による保護を提供することは極めて重要だ」と述べた。

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