欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2022/6/20

EU情報

北アの通商巡る取り決め、英が一方的破棄の法案提出

この記事の要約

英政府は13日、EUと締結した離脱協定のうち、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの一部を一方的に破棄する法案を議会に提出した。同ルールを定めた「北アイルランド議定書」の規定を […]

英政府は13日、EUと締結した離脱協定のうち、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの一部を一方的に破棄する法案を議会に提出した。同ルールを定めた「北アイルランド議定書」の規定を見直し、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを不要とする。EUとの交渉による要求実現を目指すが、EU側が歩み寄らない場合は強行する方針で、EUは反発している。

北アイルランド議定書は、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにするのが目的。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにする。その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となった。

しかし、英政府は同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを2021年7月に要求。EUの欧州委員会は10月、英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを大幅に緩和するという譲歩案を提示したが、英国側は不服とし、緩和だけでなく通関・検疫を不要とすることを求めている。北アイルランドの通商ルールをめぐる紛争を欧州司法裁判所(ECJ)の管轄とするルールの撤廃も目指す。

英国で対EU交渉を担うトラス外相は5月、EUの交渉姿勢に柔軟性がないと批判し、EUの方針が変わらなければ英政府が議定書の通関規制に関する取り決めを一方的に破棄することを辞さない意向を表明。EUとの協議を通じた同問題の解決を優先するが、交渉が決裂した場合の保険として、関連法案を準備する方針を打ち出していた。EU側は反発していたが、ついに実行に移した。

欧州委員会のシェフチョビチ副委員長は同日発表した声明で、一方的な動きを「相互の信頼を損なう」と批判。15日には法的手続きに着手すると発表した。英政府が北アイルランドに本土から入る食品などの通関・検疫規制の猶予期間を一方的に延長した際に開始したものの、その後に凍結した手続きを再開するほか、北アイルランドで必要となる通関のインフラと人員の不足、貿易に関する十分なデータをEUに提供することを怠っていることに対して法的措置を講じる。英政府の対応次第で、欧州司法裁判所に提訴することになる。

仮に英国がルールを一方的に変更すれば制裁措置として、英の離脱後も完全ゼロとなっている双方の貿易に関税を復活させる可能性がある。

英国の今回の動きには、北アイルランドの政局も背景にある。5月初めに実施された議会選挙で、議定書を支持するカトリック系のシン・フェイン党が最多議席を獲得して初めて第1党となったが、自治政府の運営には第2党に転落したプロテスタント系民主統一党(DUP)との連立が必要。英国との一体性を重視するDUPは、通関規制で北アイルランドが英本土から切り離されたとして議定書の見直し、または破棄を強く求めており、それが実現するまで連立を組まないと宣言している。英政府は北アイルランドでの政治空白を避けるため、対応せざるを得ない状況だ。