2014/10/1

総合・マクロ

銀行業界の負担一層重く=ハンガリー政府政策

この記事の要約

ハンガリーでは2010年にオルバン首相率いるフィデスが政権について以来、金融機関の事業環境が一変した。業界団体によると、◇09年の資産総額に応じた銀行業界税導入◇2013年の金融取引税導入――による税負担は累計で8,70 […]

ハンガリーでは2010年にオルバン首相率いるフィデスが政権について以来、金融機関の事業環境が一変した。業界団体によると、◇09年の資産総額に応じた銀行業界税導入◇2013年の金融取引税導入――による税負担は累計で8,700億フォリント(28億ユーロ)に上る。

さらに、外貨建て債務者の救済策が次々に実施されて銀行の負担を重くしている。

ハンガリーでは04~08年に融資が大幅に増加し、債務総額が国内総生産(GDP)の40%にも達した。このうち3分の2が金利の低い外貨建てで、さらに、外貨建て債務の90%がスイスフラン建てだった。

しかし、リーマンショックに起因する金融危機で通貨フォリントは半分に値を下げた。銀行が資金調達コストの上昇をカバーするために金利を2倍に引き上げたことも追い打ちをかけ、住宅ローンの4分の1が不良債権化した。

有権者の多くがこの問題を抱えていたため、オルバン政権はまず2011年に一括返済法を公布。外貨債務残額を1度に返済する代わりに、外貨の換算レートを市場相場よりも30%安くすることを定めた。これにより外貨建て債務の約25%に当たる1兆4,000万フォリント(44億ユーロ)が返済された。銀行の損失額は11億ユーロに上った。

この措置を利用したのが支払い能力のある顧客だったため、銀行の不良債権比率は高まった。しかし、銀行が不動産担保を現金化して債務を回収するのは難しくなった。住宅価格が低下しただけではない。債務者自身がその住宅で暮らしている場合、銀行が立ち退きを要求できない新法が公布されたためだ。

さらに最高裁判所は銀行による為替両替手数料の徴収・両替レートの操作を違法とする判決を下した。これを受けて、銀行が徴収した手数料・為替換算差額を2004年5月にさかのぼって顧客に返済するよう義務付ける法案が7月に通過。24日には施行細則が議会を通過している。これにともなう銀行業界の支出は「1兆フォリント(32億ユーロ)」(フィデス会派代表)に上るという。

銀行業界の負担は一括返済措置で11億ユーロ、顧客への返済で30億ユーロ超、税金で28億ユーロとなり、減価償却額は合計で数十億ユーロにもなる。

一方で、不良債権比率は上昇を続けている。債務者が政府による救済をあてにして返済する気を失ったためといわれる。

それもそのはずで、政府は新たに、外貨建て債務をフォリント建てに転換できる法案を検討中だ。もちろん、フォリントへの換算レートは顧客に有利なものとする。

外貨建て債務残高は総額110億ユーロ。米格付け会社フィッチのアナリスト、グリュグレヴィツ氏によると、公式換算レートとの差が1%増えるごとに銀行の損失が約8,000万ユーロ増える計算となる。

OTP銀行は7億ユーロの負担を予測。オーストリアのエルステは3億ユーロ、ライファイゼン・インターナショナル(RBI)は2億4,000万ユーロ、バンク・オーストリア(ウニクレディトグループ)は3,000万ユーロを引当金に繰り入れた。

フィッチのリウアル金融アナリストは、「ウクライナやロシアのことばかり話題になっているが、ハンガリーの例は欧州連合(EU)加盟国でも司法国家が確立していない事実を示す」と警鐘を鳴らしている。(東欧経済ニュース8月20日号「ハンガリー金融業界の負担拡大、新たな外貨建て債務者救済措置で」、2011年9月7日「オルバン首相がEUをけん制、『ハンガリーの独立を守る』」、2010年7月28日号「ハンガリー、銀行税導入法案が成立」を参照)