2015/1/14

コーヒーブレイク

医師が足りない~中東欧の人材流出

この記事の要約

中東欧地域で医師や看護師の数が不足している。自国の待遇に不満を抱き、より条件の良いドイツなどに移ってしまうからだ。『南ドイツ新聞』によればチェコ、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアといった国々の医 […]

中東欧地域で医師や看護師の数が不足している。自国の待遇に不満を抱き、より条件の良いドイツなどに移ってしまうからだ。『南ドイツ新聞』によればチェコ、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアといった国々の医療サービスは「緊急事態」で、地域の基幹病院ですらスタッフ数が定員に満たない。政府は対策を打ち出せておらず、医療関係者の不満は高まる一方で、結果、人材の流出が加速する。割りを食うのは残された患者たちだ。入院先では十分な看護を受けられず、診療所では気が遠くなるほど待たされる。

数年前にはチェコ、ポーランド、スロバキア、ハンガリーで一万人を超す医師や看護師が労働環境の改善を求めてデモを行った。とりわけチェコでは2010年、「ありがとう、もう辞めます」をスローガンに、全国1万6,000人の病院勤務の医師のうち実に4,000人が辞職を願い出た。彼らの要求は第一に十分な額の給料だ。当時、同国の医師の平均給与は(超過勤務分も含めて)2,000ユーロ。これはドイツの半分以下の金額である。政治家は給与水準の引き上げを約束したが、今日に至るまで実現していない。(※チェコ議会は先月、病院勤務者の給与を5%増額する法案を可決した)

チェコ医師会のミラン・キュービック会長は、人材流出の原因には低い給与と並んで若手医師への「ひどい処遇」があるという。専門性を身に付けるプロセスに無駄が多く、しかもその後は安月給でこき使われる。同国を去った医師の数は13年には330人、14年は上期だけで239人に上る。

他の国も状況は似たり寄ったりだ。ポーランドでは1989年の社会主義体制の崩壊以来、1万7,000~2万2,000人もの医師が国外へ移住したと見積もられている。移住先は主にドイツ、イギリス、アイルランド、ノルウェーといった国々で、給与額は最大で母国の6倍にもなる。ルーマニアでも1990年以来2万1,000人が国外へ流失し、その内の1万4,000人は同国が欧州連合(EU)に加盟した2007年以降のことだ。国外に散らばる医師の教育に国が費やした金額は総額約350万ユーロに上るにもかかわらず、彼らからは1ユーロも還元されていない。

欧州諸国間の生活水準の開きが、富める国と貧しい国とのひずみを大きくしている現実がある。しかし、状況は簡単には好転しなさそうだ。昨年11月にプラハで開かれた保健・医療関係の就職説明会(すでに第6回目)にはドイツから31の医療機関が参加し、全国120カ所にある約500の勤め口を紹介した。このような機会を通じてドイツに渡った東欧の医師たちは、富める側であるはずのドイツ人医師がより厚遇な北欧諸国やスイスへ移った後の不在を埋めて働くのである。