「主権回復」のための運河~ポーランド

ロシアの飛び地領カリーニングラード州とポーランドの国境地帯にあるヴィストラ砂洲は長さが70キロあり、ヴィストラ潟とバルト海を隔てている。この砂洲を横切るポーランドの運河が今月17日に開通した。ソ連のポーランド侵攻からちょうど83周年のこの日が選ばれたのには訳がある。

この運河はポーランド与党・「法と正義(PiS)」のヤロスワフ・カチンスキ―党首肝いりの計画として知られる。ヴィストラ潟は北と南でロシア領とポーランド領に分かれ、バルト海へ続く唯一の自然の出入り口はロシア領に位置する。このため、潟に面するポーランドのエルプロン(Elblag)港に寄るには、ロシアの許可が必要だった。これを「主権の部分的侵害」ととらえたのがカチンスキ―党首だったのだ。

総工費は約5億ユーロ。しかし、運河を運航できる船舶は長さ100メートル、幅20メートル、喫水4.5メートルまで。これらの船の載荷量は3,500トン以下で、せいぜいスポーツ・娯楽用の船舶の利用しか見込めない。エルプロンからわずか60キロのところにグダニスクの深水港があることも、運河が経済的視点に立ったプロジェクトではなく、「カチンスキ―の空想の産物(グダニスク大学のヴロティミエシュ・リジュコフスキ教授[運輸・物流経済学])」である証明だ。

環境保護団体は「ヴィストラ潟の底には、耕地から流れ出た窒素化合物やリン酸塩が沈殿しており、工事でこれが水に溶け出て生態系に悪影響を与える恐れがある」と警鐘を鳴らす。これらの成分が、オーデル川における魚介類の大量死に似た悲劇を引き起こす恐れがあるという。また、運河で砂洲が南北に分割されたため、シカやイノシシ、トナカイなど野生動物の生息数が減る可能性も指摘する。

一方で、スポーツボートやヨットで訪れる観光客が増えて地域が栄えると期待する住民の声もある。

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