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2010/1/13

総合 - ドイツ経済ニュース

銀行カード2010年問題で3,000万枚に支障

この記事の要約

2010年の年明けとともに一部の銀行カードとクレジットカードが利用できなくなった問題は、不具合の発生から10日以上が経った現在も解決されていない。国内の問題については各行が応急措置で対応し9日までに取り除かれたものの、国 […]

2010年の年明けとともに一部の銀行カードとクレジットカードが利用できなくなった問題は、不具合の発生から10日以上が経った現在も解決されていない。国内の問題については各行が応急措置で対応し9日までに取り除かれたものの、国外での利用再開については少なくとも3週間を要する見通しだ。今回の問題を受け、銀行業界と被害を受けた小売業界との間には電子マネーの決済方式をめぐる争いが再燃し始めている。

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ドイツでは年明け後、銀行カードなどが利用できなくなる問題が全国各地で起きた。銀行の現金自動引出し機や小売店設置の端末に挿入してもエラー表示が出てしまうというもので、小売店では顧客が購入を断念するケースが相次いだ。

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問題が起きたのはICカード世界最大手ジェムアルト社が製造したチップを組み込んだカード。これらカードはEMV規格のICチップを組み込まれておりセキュリティが高いものの、同社がプログラミングの際にIT技術の初歩的なミスを犯したため、今回の混乱を引き起こした。

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コンピューターのプログラミングをめぐっては、2000年の下2ケタの「00年」を1900年の下2ケタと区別できないために誤作動が起きる「2000年問題」が1990年代の終わり頃から全世界的な問題となった。このときは事前に万全の対策が取られたこともあり、深刻なトラブルは起こらなかった。

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今回の問題は基本的に2000年問題と同じで、2010年の下1ケタと2000年の下1ケタをコンピューターが識別できないことが原因となった。こうした問題が起こることはIT関係者であれば予想ができたはずで、ジェムアルトは出荷前に基本的なバグチェックをしていなかったとみられる。今回の「2010年問題」で同社の信用は大きく傷ついた。

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同社製ICチップが組み込まれた銀行カードは2,650万枚、クレジットカードは350万枚で、合計すると3,000万枚に上る。ドイツ全体の両カード発行枚数は計1億1,500万枚であるため、4分の1以上が該当した計算だ。

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銀行別で見ると、貯蓄銀行(Sparkasse)と州立銀行が銀行カードで2,000万枚、クレジットカードで350万枚と大半を占める。信用組合は計400万枚。民間銀行はコメルツ銀行とポストバンクが大部分で、計250万枚に上った。ドイツ銀行は該当していない。

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ICカードのプログラム

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現金引き出し機などで修正へ

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各銀行が取った対策は、現金自動引出し機などのプログラムを修正し、顧客データをカードの表にあるICチップでなく裏面の磁気ストライプで読み取る方式に切り替えるというものだ。ただ、磁気ストライプ方式はセキュリティが弱いうえ、ICチップのプログラミングを改めないと該当カードを国外で利用できないという問題もあるため、応急措置にとどまる。

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抜本的な解決には(1)カードを再発行する(2)銀行支店に設置するカード読み取り機や現金自動引出し機などで自動修正する――という2つの方法がある。このうち(1)には◇コストが1枚当たり10ユーロ、計3億ユーロと高い◇顧客の暗証番号(PIN)を変更しなければならない◇全カードの再発行作業を終えるまでに数カ月を要する――などの問題があるため、各行は基本的に回避する考えだ。

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貯蓄銀行グループは(2)の方式を採用する方針を10日、明らかにした。3週間後にも開始する見通しで、国外で利用する顧客を優先する。プログラムの変更に要する時間はわずか数秒に過ぎないという。

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小売店は従来型電子決済の存続を要求

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ドイツの銀行業界は磁気ストライプを利用したうえで利用者本人の署名で決済を行う従来型のサービス(電子ラストシュリフト)を2011年までに廃止し、ICチップと暗証番号入力による決済方式に一元化することを計画している。後者の方式は安全性が高いうえ、決済額の0.3%が銀行の手数料収入になるという事情が背景にある。

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一方、小売業界は手数料のかからない電子ラストシュリフト決済を存続させたい考えで、両者は以前から対立していた。小売業界は今回の問題発生を受け、電子ラストシュリフト決済を緊急事態の対応策として残すべきだと強く主張している。

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