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2010/1/20

総合 - ドイツ経済ニュース

構造改革に見直しの機運、セーフティネットの不備など鮮明に

この記事の要約

中道左派のシュレーダー政権(当時)が2003年に着手した構造改革「アジェンダ2010」を見直す機運が高まっている。改革の実施から5年以上が経ち、セーフティネットの不備や規制緩和の盲点などが明らかになってきたためだ。改革の […]

中道左派のシュレーダー政権(当時)が2003年に着手した構造改革「アジェンダ2010」を見直す機運が高まっている。改革の実施から5年以上が経ち、セーフティネットの不備や規制緩和の盲点などが明らかになってきたためだ。改革の修正が叫ばれているのは主に長期失業者の就労促進策と派遣労働ルールの2点で、与野党を問わず改革案を提起している。

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1998年に就任したシュレーダー首相(社会民主党=SPD=)は当初、労使の協調を通して企業の人件費負担軽減と雇用拡大を図る政策(雇用のための同盟)を政権運営の基軸に据えて政治のかじ取りを行ってきた。だが、労働市場の回復は一向に進まず、失業者はじりじりと増加。これにしびれを切らした労組サイドが対決姿勢を強めたことでコーポラティズム(政治と利益団体の協調を通した政策運営)は完全に破たんした。

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当時は経済のグローバル化に伴う競争の激化を背景に企業のコスト削減圧力が極めて高くなっており、人件費が高いドイツの雇用を維持するのは難しい情勢だった。

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これを受け、シュレーダー首相は第2期目開始直後の03年春、アジェンダ2010を打ち出した。ドイツ経済を取り巻く厳しい環境と社会の少子高齢化を直視したため痛みを伴う内容となっており、社民党は支持基盤である労組や社会的弱者から強い批判を浴びた。この結果、同党は分裂。現在の凋落が始まった。

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だが、経済的な効果から判断すると、改革の方向性は基本的に正しく、05年初頭に500万人を超えた失業者数は、08年秋には16年ぶりに300万人を下回った。産業立地としてのドイツに対する国外企業の評価もシュレーダー改革の効果で大きく回復した。

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長期失業者の就労インセンティブがカギに

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構造改革に対する最近に見直し要求は基本的にこうした成果を踏まえたうえで、改革に修正を加えるものだ。

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最大の焦点になっているのは長期失業者と生活保護受給者の削減を狙った改革(通称「ハルツ第4改革」)。同改革の骨子は長期失業者と就労能力のある生活保護受給者を対象に新たに「第2種失業手当」を設置したうえで、給付水準を低く設定し就労を促すというものだ。これにより(1)受給者が就職する(2)あるいは手当を受給しながらも生活費の一部を自分で稼ぐようになる――と期待されていた。(2)のような期待を政治家などが持つ背景には、これといった熟練技術を持たず正社員として採用されるのが難しい受給者が多いという事情がある。

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ハルツ第4改革が施行されてから5年が過ぎた現在、これらの狙いは十分には実現されていない。就職しようという意欲の全くない者が少なくないほか、受給者が働いて収入を得ても手元に残せるのは受給額の20%に相当する額と低いためだ。

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フォンデアライエン労働相(キリスト教民主同盟=CDU=)はこうした現状を踏まえ、受給者が手元に残せる勤労所得の比率を高める考えを打ち出した。これにより生活費を少しでも自分で稼ごうとする者が増えると期待している。就職しようとする意欲が全くない者についてはヘッセン州のコッホ首相(CDU)が強制労働させるべきだと主張し、物議をかもした。

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一定額以上の資産を持っていると第2種失業手当を受給できないというルールも問題視されている。老後のために蓄えた個人年金があるため受給できないなどのケースが目立ち、老後の生活に対する市民の不安を掻き立てているためだ。キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)からなる現政権はこれを受け、受給者が保有できる資産の上限額(Schonvermoegen)を現在の「年齢1歳当たり250ユーロ」から3倍の同750ユーロに引き上げる方針だ。野党となったSPDのガブリエル党首は老後に向けた蓄えを受給審査の条件から全面的に外すよう要求している。

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労働規制緩和で新貧困層が発生か

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シュレーダー政権は派遣労働の規制緩和も行った。派遣社員であれば企業が採用する際のハードルが低く、雇用の拡大につながると判断したためだ。

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規制緩和に当たっては「同一労働には同一の賃金を」という原則が採用され、派遣と正社員の賃金差別が禁止された。だが、派遣元の企業が労組と独自の賃金協定を結んでいる場合についてはこの原則が適用されないとする例外規定が盛り込まれたため、派遣社員の賃金は現実には正社員の水準を大きく下回っている。

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特に最近発覚したドラッグストア最大手シュレッカーのケースは悪質で、政府は法律上の盲点を早急に解消する方針を打ち出した。

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同社は小規模店を閉鎖する際に該当する従業員を解雇。そのうえで関係の深い人材派遣会社への登録を促し、新規オープンする大型店で派遣社員として再雇用していた。この手段により派遣社員となった同社の元正社員は4,300人で、全体(3万人)の14%に上る。サービス労組Verdiによると、同派遣社員の時給は6.5~7ユーロ。正社員の半額に過ぎないという。

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専門家は似たようなケースは他の大手企業などにも広がっていると指摘。規制緩和の副産物として「新しいプロレタリアート」が発生しつつある警鐘を鳴らしている。

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